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大広間から出た途端、どっと疲れが押し寄せてきた。
ゲストルームに戻る途中、突然身体に力が入らなくなりガクンと膝が抜ける。
「衣都!」
響がすかさず身体を支えてくれたおかげで、衣都はことなきを得た。
「大丈夫です。ちょっとふらついただけで」
「衣都ちゃん」
廊下の柱から今にも消えそうなか細い声で衣都の名前を呼んだのは、綾子だった。
「おば様」
綾子の目は真っ赤に充血していた。もしかして、衣都の演奏をこっそり聴いてくれていたのだろうか。
「ごめんね、衣都ちゃん!貴女に酷いことをしたわ!どうか許してちょうだい」
綾子はそう言うと、衣都に駆け寄りぎゅっと抱きしめてくれた。衣都の気持ちは綾子に伝わったいた。嬉しくて、目尻に涙が浮かぶ。
「おば様、もういいんです。そんなに気に病まないでください」
衣都は子供をあやすように、ポンポンと綾子の背中をたたいた。何もかもをひとりで背負いこんで、思い詰められていく綾子をこれ以上見ていられない。
「おば様、教えてください。土蔵で私の背中を押したのは誰ですか?」
綾子は弾かれたようにパッと衣都を見上げた。
あの時、綾子の他にも足音が聞こえた。衣都の敏感な耳は綾子以外の足音を、精緻に聞き分けていた。
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