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「何の騒ぎだ!」
肩を怒らせた秋雪と、足止めに失敗し申し訳なさそうに眉を下げた律がその場に走り寄ってきたのだった。
「秋雪さん」
「綾子、お前」
秋雪は綾子がこの場にいることに、心底驚いていた。
「ごめんなさい秋雪さん!私がいけなかったの!あの日からずっと貴方を騙していました」
綾子は意を決したように秋雪を真っ直ぐ見つめ訴えかけた。秋雪はきょとんと目を丸くするばかりだ。
「一体何の話だ?」
「綾子さん!」
紬は声を荒らげ、綾子を止めようとしたが。
「私はもう貴女のいいなりになって衣都ちゃんと響を困らせたくない。秋雪さん、貴方にお話しなくてはいけないことがあります」
綾子はきっぱりとした態度で、彼女を跳ねつけた。衣都の演奏が綾子の心を変えたのかもしれない。
切り札があっけなく失われて、紬は歯軋りをした。
「ハッ!どこまでも気持ちの悪い一族!しきたりなんかに振り回されて滑稽だわ!あんた達なんかこちらから願い下げよ!」
紬は分が悪いと悟ると捨て台詞を吐き、逃げるように立ち去って行った。
久方ぶりに訪れた静寂を破ったのは律だった。
「衣都、お前は今から病院に行くぞ。車を待たせてある」
「でも」
梅見の会はまだ終わっていない。
なにより、あの状態の綾子をひとりにさせるわけにはいかない。後ろ髪を引かれるような思いがした。
「衣都ちゃん。私ならもう平気よ。もう覚悟は出来ているの」
胸のつかえがすべてなくなった綾子はいつものひだまりのような笑顔で衣都を送り出した。
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