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衣都の右足首は検査の結果、靱帯損傷としては軽い部類で、2週間程度の安静と包帯固定で済んだ。
治療を終え、病院から旧四季杜邸に戻ると、梅見の会は既に終宴を迎えていた。
ゲストルームには四季杜一家が勢揃いしており、衣都達が戻って来るのを待っていた。
関係者が全員揃うと綾子はポツリポツリと話し始めた。
「ずっと紬さんに脅されていたの」
綾子は当初こそ響と衣都の関係に驚いたものの、すぐに二人を祝福しようと思い直した。
しかし、紬の元へ詫びに行くと、にわかに態度が豹変した。ひた隠しにしていた秘密を盾にされ、二人の結婚を白紙に戻すよう強要された。
その後はズルズルと彼女の言いなりなってしまったそうだ。
「おば様は何を隠していたのですか?」
衣都は抱いた疑問をそのまま綾子にぶつけた。衣都にとって秋雪と綾子は理想の夫婦だった。
妻を尊重する秋雪、夫を献身的に支える綾子。二人の間に隠し事などなさそうに見えた。
「私、本当はあの夜、秋雪さんとは何もなかったの!」
綾子は耐えかねたように叫んだ。
「あ、兄から頼まれたの。お酒に弱い秋雪さんを酔わせて、既成事実を作ってこいって。け、経営難のうちの料亭のために、慰謝料をもらってこいって。でも本当は何もしていないの!し、しきたりのことも知らなかった!まさか、結婚することになるなんて!」
綾子は顔を手で覆い、おいおいと泣き始めた。
いまいち状況を把握できなかった衣都は律から詳しい説明を受けたのだった。
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