7.春を寿ぐ旋律

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「父さん」  この期に及んでお茶を濁そうとする秋雪を響はジト目で咎めた。  隠していることはこの際、すべてをさらけ出してしまった方がいい。  総帥ではなくひとりの男として、妻たる綾子に自分の気持ちを伝えた。 「酔い潰れたと思い込んで甲斐甲斐しく世話をしてくれる綾子が、可愛くて。妻にするならこの人しかいないと確信したんだ」 「秋雪さん?」 「理由はなんでも良かったんだよ。都合よく慰謝料の話をされたものだから、しきたりを理由に結婚を持ちかけた。そこまで気に病んでいたとは知らなかったんだ。悪かった」 「ああ!」  再び涙を流し始めた綾子を秋雪はドギマギしながら抱き寄せた。  長年夫婦として過ごしていながら、あまりにも辿々しい手つきだった。  衣都と響、律の三人は互いに顔を見合わせると、そっとゲストルームから離れた。今は二人きりにしてあげたい。 「俺、先に帰りますね」    律はそう言い残し、妻子の待つ自宅に帰って行った。  衣都と響は旧四季杜邸に残り、大広間のバルコニーで肩を並べ梅園を眺めた。  よく考えたら、梅見の会の間はゆっくり梅を眺める余裕もなかった。  芳しい梅の匂いを胸いっぱいに吸い込んでいく。ライトアップされた梅の花は夜露に濡れながらも、健気に咲いていた。
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