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「右足は平気かい?」
「はい。処置が適切だったおかげです。痛み止めの薬もよく効いているみたいです」
医者の話では無理さえしなければ、すぐに良くなるそうだ。しばらくはマンションでゆっくり養生させてもらおう。
「おば様のお話、本当に驚きました」
「しきたりに従って結婚したとはいえ、三十年以上も連れ添っていたら義務なのか愛情なのか、判別がつきそうなものだけれどね」
「きっとお互いに怖かったんですよ。真実を口に出してしまったら、夫婦を続けられないかもしれないから」
それは、かつて衣都が抱いていたものと同じ想いだ。
臆病で、繊細で、触れたら壊れてしまいそうなほどに儚い。
単なる他人以上の気持ちを期待してゆらゆら揺れ動く。
それを、人は恋と呼ぶのだ。
なんて愛しくて、尊いのだろう――。
「父さんも今回の件で、例のしきたりの廃止に前向きになってくれるだろう」
「じゃあ、私達がしきたりに従って結婚する最後のひと組になるのかもしれませんね」
「そうだね」
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