2.四季杜家のしきたり

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 衣都が連れてこられたのは、四季杜家の屋敷から高速道路を使って五十分ほどの場所にある、高級レジデンスだった。  響は大学を卒業してからは、四季杜の屋敷を離れ、通勤しやすい山の手エリアでひとり暮らしをしている。  セキュリティロックをいくつも潜り抜けたその先に、彼のプライベート空間があった。 「うわあ……」 「気に入った?」  大理石の廊下の先には、広々としたリビングとL字型のシステムキッチン。  ルーフバルコニーからは、都心のビル群がいくつも見えた。遠くにはうっすら富士山の姿もある。  五階の角部屋ということもあり、風通しも良く、日当たりも抜群だ。  四季杜の屋敷ほど広くはないが、ひとりで暮らすには十分だった。 「今日から衣都もここで暮らすんだ」  響に肩を抱かれたことで、衣都はようやく我に返った。  初めて訪れる響のプライベートルームに感動している場合ではない。 「あの……!」 「もうお昼だね。お腹空いてる?どこかに食べに行こう。衣都もこの辺りの店を覚えた方が良いだろう?」 「は、はい……」  異議を申し立てようと意気込んだところで、出端を挫かれてしまった。  響は鼻歌交じりに、玄関まで戻ろうとしていた。  ……ああ、ダメ。  このままだと、響は衣都を顧みることなく先に進んで行ってしまう。  衣都はまだ納得していなかった。  色々な情報が錯綜していて、心の整理が追いついていない。
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