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「あーそういうこと?それであんなものを頼んだわけですね。ったく、何に使うのかと思いましたよ」
「兄さん、何を頼まれたの?」
「衣都の戸籍謄本だよ。結婚するなら必要だもんな?」
許可していないにも関わらず、当然のように戸籍謄本が入っていると思しき茶封筒が響の手に渡っていく。
自分のあずかり知らないところで、色んな話が進んでいてそら恐ろしい。
二人とも既に結婚を決定事項として扱っている。なぜ?
「じゃあ、渡すものも渡したし、俺は……」
帰宅の気配を察知した衣都は、慌てて玄関まで走り、律のセーターを掴んだ。
(置いて行かないで……!)
必死の形相で訴えたのが通じたのか、律は響と衣都の表情を見比べ、観念したようにため息をついた。
「あー響さん?今日のところは衣都をうちに泊めてやってもいいですかね?いやね?うちの娘がこの間から『衣都に会いたい』ってうるさいもんで……」
「律の子供はまだ一歳にもならない赤ん坊だろう?流暢にお喋りできるはずがない」
適当な理由をでっちあげた律に、響が正論を突き付ける。律はやれやれとでも言いたげに首の後ろをかいた。
「結婚前に兄妹水入らずで過ごす時間くらい、もらっても罰は当たらないんじゃないですか?心の広ーい響さんなら、目くじら立てずに快く許してくれますよね?」
律は響を試すように、悠々と微笑みかけた。
衣都同様、長い間居候生活を送っていた律は、何をどう言えば響のプライドを刺激することができるか熟知している。
藪を突いて蛇を出すようなヘタを打つこともない。
器が小さいのではないかと、皮肉を交えて言われてしまっては、響としては引き下がるしかないだろう。
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