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衣都の担当する小学生コースは、音楽教室の中で最も活気があり、毎回賑やかな声で溢れている。
彼らを指導する衣都も当然、生徒に負けじと奮起しなければならない。
「確かに大変ですけど……子ども達を見ているとやる気がでてくるんです」
まっさらな子ども達は芽が生えたばかりの若葉のように、ぐんぐんと知識と技術を吸収し成長していく。
それは時として、駆け出しのピアノ講師である衣都の想像を遥かに超えてくる。
講師になる前には味わったことのない感覚に、衣都はピアノを教える喜びと意義を見出していた。
「ホント!衣都先生ってば、可愛い顔してなかなか逞しいんだから〜!」
「あ、いや、あのう……」
樹里から可愛い顔と茶化すように褒められ、衣都はうろたえた。
どちらかえと言えば、とっくに成人済みなのに高校生と間違えられるほどの童顔は衣都のコンプレックスだ。
丸顔な上におでこが広く、眉の上で揃えた前髪と背中の中程まで伸びたストレートヘアのせいか、大学生と頻繁に間違えられる。
しかし、相手がそれを美点として誉めようというのに、真っ向から否定するのもいかがなものか。
衣都は結局、曖昧な愛想笑いを浮かべ、そそくさと手元に置いたバインダーを開いた。
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