2.四季杜家のしきたり

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「……わかった」  渋々ではあるがこの場から離れる許可をもらった衣都は心底安堵した。 「ほら、衣都。行くぞ」 「うん……」    衣都はトートバッグを肩に掛け、しずしずと律の後ろについていった。 「明日、仕事が終わる時間に迎えに行く」  すれ違いざま業務連絡のように淡々と声を掛けられ、足が止まりそうになる。  響は同居をやめる気もなければ、結婚を白紙に戻すつもりも、さらさらないのだ。  衣都は玄関の扉が閉まる最後の瞬間になっても、返事ができなかった。 「おーこわこわ!響さんにマジギレされるかと思ったぜ」  律は駐車場に停めた車に乗り込むなり、おどけてながら己の身体を抱き締めた。 (本当に助かった……)  衣都は助手席に座るとヘナヘナとドアにもたれかかった。  あのまま響のマンションにいたら、なし崩しで結婚まで持ち込まれかねなかった。  響に睨まれるリスクを承知で連れ出してくれた律には感謝しかない。 「それにしてもよかったな〜。不毛な初恋が実って。結婚したら財閥夫人か?」  唯一の味方であるはずの律からも揶揄され、衣都は涙目になった。 「わ、私……まさかこんなことになるなんて……!」 「わかっているさ。衣都が四季杜家の”しきたり”を知ってるはずないもんな?まあ、俺も?あの衣都が響さんと寝るとは思ってなかったけど」  身体の関係があると知られている恥ずかしさで、かあっと顔が熱くなっていく。  あけすけなものの言い方は律の良いところでもあり、悪いところでもある。
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