2.四季杜家のしきたり

18/19
前へ
/160ページ
次へ
「着ていいと言われても……」 「気に入るものがないなら、他にも用意させようか?それとも自分で選びたい?一応、スタイリストに衣都の好みを伝えてみたんだけど」  開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。  衣都だって、かつては社長令嬢と呼ばれていた。好きな服やおもちゃを買い与えられた経験もある。  しかし、四季杜財閥の御曹司は次元が違う。  クローゼットの中に並んでいたのは、誰もがよく知る有名ブランドショップの物ばかり。  昨日の今日であれだけの品を揃えられるのは、四季杜の名前のなせる業だ。 「欲しい物があったら遠慮なく言ってくれ。衣都がおねだりしてくれるなら何だって用意する」 「あ、いえ……。今は……大丈夫です……」 「そう?」  衣都は口を噤み、一昨日の夜、響がなんと口にしたか改めて思い出した。 (『全部、衣都にあげる』って……。まさか、そういう意味なの?)  響の本気を感じ、衣都は身震いした。  目の前にいるのは、その気になれば『何でも』手に入れることができる人だ。  響は自分の持つ権限すべてを使って、衣都を懐柔しようとしている。  嬉しいけれど、なんだか怖い。
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1212人が本棚に入れています
本棚に追加