2.四季杜家のしきたり

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「リビングまで来てくれてちょうどよかった。話があるんだ。座ってくれる?」  衣都がソファに座ると、響は一枚の紙と万年筆をテーブルの上に置いた。  茶色で縁取られたその紙は、正真正銘本物の婚姻届だ。 「ここに、衣都の名前と現住所、本籍地を書いてほしい」 「あのっ!待ってください!私……まだっ!」  何もかもが性急だった。  衣都には冷静に物事を考える時間が必要だった。  しかし、そんな優柔不断な衣都を響が許すはずがない。 「なら、いつまで待てばいい?」 「いつまでって……」 「その気がないなら、はっきり言ってくれ。衣都は結論を先延ばしにしているだけだ」 「ごめんなさい……」  場当たり的な行動を非難され、シュンとうなだれる。 「……まあ、いいよ。待つのには慣れているからね。好きなだけ心の準備をするといい」  響はそう言うと、目に毒な婚姻届をチェストの中にしまってくれた。  よかったと安堵したのも束の間、今度は衣都の顎を指で持ち上げ、瞳を覗きこみながらこう続けた。 「覚えておいて、衣都。僕は……イエス以外の返事はいらない」  念を押すように唇を親指でなぞられ、ドクンと大きく心臓が脈を打った。  ノーを言うのが許されないなら、衣都は一体どうしたらいいのだろう?
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