3.財閥御曹司の熱情

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3.財閥御曹司の熱情

   朝、目を覚ますとこれは本当に現実なのか、いつも疑ってしまう。  夜が明け始めた朝六時。スマホのアラーム音で目を覚ました衣都は澄んだ朝の空気を吸いこむなり、ぶるりと身体を震わせた。  十二月上旬になり、冬物のコートやマフラーが大活躍するようになってきた近頃。  空調の効いた室内であってもパジャマ一枚では心もとない。衣都は二年近く愛用しているふわもこカーディガンをクローゼットから取り出し羽織った。  ハンガーラックの半分を埋めるブランド品には目もくれない。なんなら、あえて見ないようにしているくらいだ。  用を済ませた衣都は後ろ手で、クローゼットの折戸を閉めた。 (まだ夢の中にいるみたい……)  目の前に広がる光景は、狭いながらも全てが過不足なく詰まっていた自分のワンルームとは、雲泥の差があった。  宝石を散りばめたような煌びやかなドレッサー。  適度な反発で横たわる人を快適な睡眠に誘うベッド。  すべてにおいて効率よりも、ゆとりが重視された贅沢なインテリアの配置としつらえ。  窓から見える風景だって大違いだ。  広い敷地に建てられたレジデンスは周囲の住宅からの視線を遮るために、あちこちに木々が植えられており、まるで公園の中で過ごしているような気持ちになる。  ――衣都が響と暮らし始めてから早くも二週間が経過していた。
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