3.財閥御曹司の熱情

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 数分後、衣都の手元には淹れたてのコーヒーが届けられる。 「どうぞ」 「ありがとうございます」  コーヒーがテーブルに届くと、衣都は朝食の皿に手を伸ばした。  近所にあるという高級食パン店で購入されたクロワッサンは、味も値段も一級品だ。  普段口にしていた食パンよりもはるかに美味しいはずなのに、置かれた環境のせいなのか味気なく感じられる。 「今日は仕事?」 「はい」  土曜日のこの日、響の仕事が休みである一方、衣都は仕事の予定だ。  衣都の休日は教室が休みの祝日と日曜日、あとは担当するレッスンがない水曜日だ。  大人向けのクラスは一般企業の休みと合わせ、土曜日に多く開催されており、当然衣都達講師は指導にあたる。  なんとか朝食を食べ終え、服を着替え髪をヘアアイロンで整えると、早くも出勤時間が迫ってくる。 「いってらっしゃい」 「はい。いってきます」  響に見送られてレジデンスを出発した衣都は、からっ風で靡くマフラーを手で押さえながら最寄りの駅までテクテクと歩く。  響と暮らし始めたてから、歩いて二十分ほどだった通勤時間が倍以上になった。  責任を感じた響が運転手をつけると申し出てくれたが、衣都は必要ないと断ってしまった。  毎日、運転手に仰々しく送り迎えしてもらう自分の姿が、どうしても想像できなかったのだ。
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