3.財閥御曹司の熱情

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 ◇   「お疲れ様、衣都先生〜」 「お疲れ様です」  仕事を終えた衣都はビルの階段を降りたところで、同じく仕事終わりの樹里から声をかけられた。 「ねえ衣都先生、よかったらこれから一緒にご飯でも食べない?うちの夫、今日飲み会らしくて、ひとり飯なの。付き合って~!」  樹里からの突然のお誘いに衣都は思わず顔を綻ばせた。  一緒に暮らし始めてから響と顔を合わせて食事をする機会が増えたが、味がしないことも多い。  気の置けない同僚との食事は、いい気分転換になるに違いない。  前もって連絡しておけば、外で食事をするのも問題ないだろう。  いいですねと賛成しようとしたその時……。 「衣都、お疲れ」 「……響さん?」  なんと、ガードレールの縁に座った響が、衣都に目配せを送っているではないか。  チェスターコートにマフラーを羽織っただけのカジュアルな出立ちなのに、彼の持つただならぬ雰囲気のせいか、通行人がすれ違うたびにチラチラと振り返る。  本人にさして気にする様子がないことが唯一の救いだ。 「あら、あなた……。先日、発表会にもいらした四季杜の……」 「四季杜響です。いつも衣都がお世話になっています」  響から微笑まれた樹里の顔が赤らんでいく。  たとえ既婚者といえど眉目秀麗な響を一目見ると大体の人はこうなるので、不思議でもなんでもない。
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