3.財閥御曹司の熱情

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「あ、もしかして彼氏さんと先約があったの?ごめんね、急に誘っちゃって!」 「か、か、彼氏!?」  これまで男性と縁がなかったせいなのか、彼氏という単語に過剰に反応してしまう。  誤解を解かなければと焦りに焦る衣都の代わりに響が答えた。 「残念ながら『彼氏』ではないんです。ね、衣都」  勘違いされては今後の仕事に支障が出る。  衣都は響に同意するようにうんうんと何度も力強く頷いた。それが間違いだった。 「僕達、結婚するんです」    響は小首をかしげ満面の笑みを浮かべながら、恋仲だと見せつけるように衣都の肩を抱いた。  しまったと思った時にはもう遅い。  気づいた時には響が仕組んだ巧妙な罠に引っ掛かった後だった。 「え、そうなの……!?わあ!おめでとう!」  突然の結婚宣言にも関わらず、樹里は手を叩いて喜んだ。響の言葉をすっかり信じこんでいる。 「ち、違うんです!わ、私はまだ……っ!」    このまま思惑通りに進ませるわけにはいかないと、衣都は懸命に声を張り上げた。 「衣都先生ってばそんなに照れなくてもいいのに〜!他の人には黙っておくから、ね?」  樹里は察しが良かった。しかし、それは衣都の真意とは真逆の方向にだった。  ガクンと身体の力が抜けていく。 (わざとね……!)  ニコニコと愛想よく笑っている響を横目で睨む。  誰もを魅了するチャーミングな笑顔も今の衣都には一ミリも効かない。  響がわざと『彼氏ではない』と衣都の相槌を誘発し、結婚を匂わせたのは明らかだった。  これ以上、余計なことを言い出す前にこの場から離れなければ。
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