3.財閥御曹司の熱情

10/22
前へ
/96ページ
次へ
 ――ところが、数十分後。  衣都は世の女性から絶大な人気を誇る、とあるアパレルブランドショップの前に立っていた。 「あのう……食事に行くはずでは……?」 「うん。行くよ」 「……なら、どうしてここに?」 「ドレスコードがあるんだ」  ドレスコードがあるから、わざわざ新品の服を買いにきた?  クローゼットの中にはまだ一度も着ていない洋服が眠っているのに?  呆気に取られていたら、強引に手を引かれる。  ショップの中に足を踏み入れた衣都は、先を歩く響に大人しくついていった。 「どれにする?衣都ならどれも似合いそうだね」 「あの……」  響は次々と衣都に服をあてがっては、『違うな』『うん、いい』と呟きながら、ハンガーラックにかけられていた服を選り分けていった。 「あ、好みのものがあったら言ってね」 「でも……」  例え好みのものがあったとしても、店員を呼びつけ楽しそうにあれこれと服のことを尋ねる響に対して、口を挟む気にはなれなかった。  そもそも衣都には高価なものを男性に買ってもらった経験がない。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

484人が本棚に入れています
本棚に追加