3.財閥御曹司の熱情

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 服を購入し車まで戻ってくると、衣都は改めて行き先を尋ねた。 「これからどこに行くんですか?」 「行けば分かるよ。楽しみにしていて」  響は内緒と言わんばかりに人差し指を唇の前に立てると、車を発進させた。  ドレスコードがあるというからわざわざ着替えたのに、車はどんどん中心街から遠ざかっていく。 (この先にレストランなんてあるのかしら?)  運転免許を持っておらず方向感覚に自信のない衣都には、車がどこへ向かっているのかさっぱりわからなかった。 「着いたよ」  ようやく目的地と思しき場所に到着しても、いまいちピンときていない。  しかし、車から降り立った瞬間に、ここがどこかすぐにわかった。  湿気をたっぷり含んだ冷たい風が頬を撫でていく。  ……潮の香りがする。  衣都が連れてこられたのは、湾岸エリアにある客船ターミナルだった。  駐車場からエレベーターに乗り、ターミナルの建屋の中に入っていくと、大きな窓から埠頭に係留されている大型クルーズ船が見えた。 「うわあ……!」 「四季杜が所有するクルーズ船のひとつ、『ノクターン号』だよ」  響は得意げにクルーズ船の名前を読み上げた。 (なんて大きいの……!)  どんなに頑張っても船全体を視界に収めきれない。  日暮れを過ぎ、クルーズ船には柔らかな光が灯されている。  既に乗船が始まっているのか、桟橋には多くの人が集まっていた。
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