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コスモスハーモニー音楽教室では春と秋の年二回、発表会が開催されている。
この街一番のお金持ちにして、発表会のスポンサーでもある四季杜家の奥様にパンフレットを届けに行くのは、本来ならこの教室の経営者である和歌子の役割だ。
「ほら、四季杜の奥様も私より衣都先生の顔を見た方がきっと喜ばれるでしょう?あなた、最近お屋敷に顔を出していないようだし、きっと寂しがってらっしゃるわ。お願いできる?」
「……はい。わかりました」
衣都は刷りたてのパンフレットを二部受け取ると、トートバッグの中に大事にしまった。
教室のある雑居ビルから出ると、すっかり日が沈んでいた。
信号待ちの合間にスマホを操作し、連絡先一覧から目的の人物の名前を探り当てる。
あとひと押しで電話がかけられるというところまできて、衣都の指がピタリと止まる。
(急に電話したら……ご迷惑よね?)
悩んだ末に電話ではなくメッセージを送ろうと思い直し、衣都はアポイントをとるべく文章をしたため始めた。
(和歌子先生ったら……。いくら私が『元居候』でも、おば様とそうそう気軽に連絡できるわけではないのに……)
衣都はスマホ片手に大きなため息をついた。
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