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「ありがとう、響さん」
衣都がはにかみながらお礼を言ったその直後、ブランケットごと背後からぎゅうっと抱きすくめられる。
密着した体勢に動悸が激しくなっていく。
「ひ、びき……さん……?」
「やっと……いつもみたいに笑ってくれたね」
自分の言動に身に覚えがあり過ぎて、ギクンと心臓が飛び出そうになった。
「わ、私……そんなに笑ってませんでした?」
なるべくいつも通りを心がけていたつもりだったが、初恋の相手と結婚前提の同居生活をしておいて、緊張するなと言う方が難しい。
ましてや、衣都はまだ結婚について何の結論も出していないというのに……。
「やり方を間違えたのかと思った。律には『感性がずれてる』って怒られたよ。でも、僕には衣都の喜ばせ方がよく分からなくて……。あとはもう『あれ』に頼るしかないのかなって……」
「チョコレートですか?」
「馬鹿のひとつ覚えだろう?」
響は自虐的に笑うと、腰に回した腕により一層力を込めた。
「ずっと――こうやって衣都を抱きしめてみたかったんだ」
鼓膜を震わせる甘い囁きに、衣都は耳をそばだてた。
響と触れ合っている箇所が燃えるように熱い。
「君を愛している――。僕が傍にいて欲しいと望むのは衣都だけだ」
今し方耳に入ってきた言葉が信じられなくて、衣都はゆっくりと後ろを振り返った。
響は苦しそうに顔を曇らせながら衣都に訴えた。
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