3.財閥御曹司の熱情

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「衣都がなにも望んでいないことはよくわかっている。でも、どうか僕と結婚してくれないか?」  結婚して欲しいと懇願する響に、なんと言っていいのか言葉が見つからない。  自分がいつまでも二の足を踏んでいたせいで、彼に辛い想いをさせてしまった。  ……答えなど最初から分かりきっていたのに。  衣都はぐっと顎を上げ、暗く翳ってしまった響の瞳を見つめた。 「私、こんな状況になってしまった今でも……あの夜、響さんに身を任せたことを後悔してないんです」  それは衣都の嘘偽らざる本心だった。  現状に戸惑う気持ちはあっても、不思議とあの夜をなかったことにしたいとは思ったことはない。  あの日に戻ることができたとしても、きっと同じ選択をしていただろう。   「響さんの『初めて』が、私でよかった――」  衣都は常識も遠慮もかなぐり捨てて、響の胸に飛び込んだ。  ――もう逃げない。  自分の気持ちからも、響の気持ちからも、目を逸らしたりはしない。  ただの憧れなら、傷つかないでいられた。  衣都に足りなかったのは夢を現実にするための覚悟と勇気だ。 (響さんが『愛してる』と言ってくれるなら……私は……)  ――もっと強くなる。  誰に非難されても、この恋を死ぬまで貫き通してみせる。  衣都は決意を込めて、響に告げた。 「私、響さんと結婚します」 「絶対に幸せにするよ――」  二人は額を寄せ合い微笑み合うと、一足早い誓いのキスを交わした。
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