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「衣都がなにも望んでいないことはよくわかっている。でも、どうか僕と結婚してくれないか?」
結婚して欲しいと懇願する響に、なんと言っていいのか言葉が見つからない。
自分がいつまでも二の足を踏んでいたせいで、彼に辛い想いをさせてしまった。
……答えなど最初から分かりきっていたのに。
衣都はぐっと顎を上げ、暗く翳ってしまった響の瞳を見つめた。
「私、こんな状況になってしまった今でも……あの夜、響さんに身を任せたことを後悔してないんです」
それは衣都の嘘偽らざる本心だった。
現状に戸惑う気持ちはあっても、不思議とあの夜をなかったことにしたいとは思ったことはない。
あの日に戻ることができたとしても、きっと同じ選択をしていただろう。
「響さんの『初めて』が、私でよかった――」
衣都は常識も遠慮もかなぐり捨てて、響の胸に飛び込んだ。
――もう逃げない。
自分の気持ちからも、響の気持ちからも、目を逸らしたりはしない。
ただの憧れなら、傷つかないでいられた。
衣都に足りなかったのは夢を現実にするための覚悟と勇気だ。
(響さんが『愛してる』と言ってくれるなら……私は……)
――もっと強くなる。
誰に非難されても、この恋を死ぬまで貫き通してみせる。
衣都は決意を込めて、響に告げた。
「私、響さんと結婚します」
「絶対に幸せにするよ――」
二人は額を寄せ合い微笑み合うと、一足早い誓いのキスを交わした。
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