3.財閥御曹司の熱情

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「衣都、扉が開けられないよ?」  廊下と部屋を隔てる玄関扉の前まで来ると、響は衣都をからかうように嗜めた。 「ご、ごめんなさい……」  衣都は正気に戻り、パッと響から離れた。羞恥でかあっと頬が熱くなる。  今日は大目に見てもらえたが、今後は気をつけなければ。いくら両想いが嬉しくても、やりすぎは禁物だ。 「あのっ!今日はとっても楽しかったです!おやすみなさい」  衣都は気まずさを隠すべくお礼の言葉もそこそこに、与えられた自室に下がろうとした。  しかし、その前に廊下の壁に手をついた響に行く手を阻まれる。 「響、さん?」 「紳士でいられるのも……ここまでかな?」  響は素っ気なく笑い、衣都の耳に唇を寄せ囁いた。 「あのしきたりのせいで、今まで見守ることしかできなかったんだ。もう抑えがきかない」  前髪からチラリとのぞく瞳は二人が溶け合ったあの夜と同じ熱量を孕んでいた。  切羽詰まった掠れた吐息が首筋にあたり、目をぎゅっと瞑る。  ずっと、響が好きで、響だけを思い続けた十年間だった。 何をしてもこの恋は叶わないと最初から諦めていた。  響も同じ想いを抱えていたのだと思うと、愛おしさが溢れていく。 「欲しいものを……何でも言っていいんですよね?」  抑えがきかないのは、衣都も同じだった。響の存在を一番近くで感じたい。腕に抱きつくだけでは物足りない。  
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