3.5.君にしかけた甘い罠

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「響も仲良くしてあげてちょうだい〜!」 「わかりました」    綾子からひと通りの説明を受けた響は小さく頷いた。  響自身も二人の境遇には不憫なものを感じていた。  区画は違えど同じ屋敷に住むのだから、ある程度の人間関係を築く必要性もある。  兄の方は特段、問題なかった。  律は自分達の現状を正しく理解しており、取り乱すこともなく、すんなりと四季杜の屋敷に馴染んだ。  問題は妹の衣都だった。 「あ……」  たまたま廊下で鉢合わせしただけなのに、衣都は響の顔を見るなり踵を返し走り去って行った。  律からは運動が苦手だと聞いていたが、やけに俊敏な動きだ。  初めて言葉を交わした日以来、どうしてか避けられている。  何度か話しかけようと試みたものの、大体、避けられるか、逃げられるかのどちらかになる。  割合としては逃げられることの方が多めといったところ。 (まるで行動が読めないな)  弟妹のいないひとりっ子の響には年下の思春期の女の子にどう接するのが正しいのか、よくわからなかった。  衣都の行動は理解不能だった。 (まあ、好きにすればいいよ)    響には衣都を追いかけ、自分を避ける理由をわざわざ聞きだす情熱もなければ、義理もなかった。  三宅兄妹が四季杜家の屋敷で暮らすのは、成人するまでのわずかな期間だけ。  距離が縮まろうと広がろうと別にそれほど問題にはならない。  一緒の屋敷に暮らせど、所詮は赤の他人だ。  あちらが嫌がっているのに無理強いすることもないと、響は早々に良好な関係の構築を諦めた。  ところが、響の考えとは裏腹に、衣都との距離が縮まるような出来事が起こるのだった。
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