3.5.君にしかけた甘い罠

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 チョコレートをせっせと差し入れする奇妙な関係に変化が訪れたのは、この生活を二ヶ月ほど続けたある日のことだった。  いつものように窓の外からピアノに耳を傾けていた響は、微かな異変を感じとった。 (おかしいな?)  音が十分以上止まっているにも関わらず、衣都が離れから出て来る気配がない。  衣都は練習中、ほとんど休憩を取らない。  次から次へと曲を変えては、同じ小節を反復練習し、練習が終わるとチョコレートを食べ、ほんの数分で屋敷へ戻っていく。 (まさか……!)    胸騒ぎがした響は、慌てて離れの扉を開け放った。  練習中の部屋に初めて足を踏み入れた響が見たのは、窓枠に足をかけた衣都だった。 「衣都!何をしているんだ!」 「ふ、譜面が……」  衣都は突然離れにやってきた響に驚きつつ、か細い声で訴えた。 「譜面?」  衣都の指さす方を見ると風で巻き上げられたのか、譜面が木の枝に引っかかっていた。  確かに衣都の身長では手が届きそうにない。 「僕が取るから、君はそこにいて」  一階とはいえ、窓枠に足をかける衣都を見た時は生きた心地がしなかった。  響は自ら身を乗り出し、譜面を取ってやった。 「ありがとう……ございます……」  譜面を渡すと、衣都はボソボソとお礼を言った。
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