3.5.君にしかけた甘い罠

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   月日は流れていき、響は大学を卒業した。  社会に出ることをきっかけに、四季杜の屋敷を離れるという決断を下した。 「響さん……」 「そんな顔をしないでくれ。時間がある時は帰って来るから」  響は瞳を潤ませる衣都の頭を、優しく撫でてやった。  衣都は一年、また一年と、年を経るごとに美しく成長していった。  響は既に後ろめたい恋心を自覚しており、衣都と一定の距離を保っていないと、気が狂いそうになっていた。  大人の階段を着実に歩んでいく彼女を、もう純粋な目では見られない。  ――油断すると、跪いて愛を乞いたくなる。  ぐつぐつと煮えたぎる欲望は捌け口を求めていた。  『好きだ』と口に出せたなら。もし、衣都が笑って応えてくれたなら……。 (それだけはダメだ……)  響はきっと、喜び勇んで行き着くところまで行ってしまう。  心優しい衣都に要らぬ十字架を背負わせてしまうことだけは避けなくてはならない。  厄介な『しきたり』の存在を聞かされたのは、十歳の時だった。  秋雪からはある種の精神修行のひとつだと教えられた。  『初めてを捧げた女性と結婚しなければならない』というしきたりは、四季杜家初代当主が定めたと言われている。  要するに、不特定多数の女性と関係を持つような、ただれた生活を送るなという戒めだ。
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