3.5.君にしかけた甘い罠

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(余計なお世話だ)  しきたりがなくても、ケダモノのように手当たり次第女性を漁るような真似はしない。  響が欲しいと望むのは、衣都だけだ。  結婚はしきたりの副産物にすぎない。  しかし、衣都はそうは思わないだろう。  だから響は自分にある枷を課した。  衣都から望まれないかぎり、絶対に手を出さない。  その代わり、望んでくれたら二度と離しはしない。  忌々しいことこの上ないしきたりだったが、愛する女性を囲う檻としてはちょうどいい。  その時がやってくるまで、響は『初めて』をとっておくことにした。どうせ衣都以外の女性を欲することはない。  拗らせた執着心の方は、チョコレートで包んで覆い隠した。  甘い毒を孕んだチョコレートをいつも食べさせられているとは、衣都は夢にも思わなかっただろう。  チョコレートを贈ることで、響は衣都に対する独占欲を押さえつけていた。  待望の日は、思いもよらない形で唐突にやってきた。 『お願いです……!今日だけでいいから……恋人みたいに愛して欲しいの』  ――響がどれほどその言葉を待ちわびていたか、衣都だけが知らない。 (やっと、この手に堕ちてきてくれた……)  チョコレート味の甘い罠。  か弱いウサギを捕まえるための甘い疑似餌。  響は想像の中で何度汚したかわからない、本物の衣都を腕に抱き、恍惚とした表情でほくそ笑んだ。
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