3.5.君にしかけた甘い罠

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「俺は三宅製薬の元社員たちがくいっぱぐれることがなくて、家族が幸せならそれでいいんです。余計な波風立てる必要ありませんよ。四季杜財閥と違って、こちとら小市民なもんで」 「父上の会社を取り戻さなくていいのかい?」 「響さんの面倒をちまちま見てる方が、気が楽でいいです。それに、四季杜の監視の目が光っている内は、迂闊に元社員達の首を切れないでしょう?共存の道を模索していた親父なら、文句言いませんよ」  響は素直に感心した。  試合に負けて、勝負に勝つ。言うが易し、行うが難し。  自分の感情を押し殺し、大多数の幸福を迷いなく選び取れるのは、やはり経営者の器に違いない。  ……本人は否定したがるだろうけれど。 「はい、三宅です」  執務室に着信音が鳴り響くと、律は話を中断し、素早くスマホを耳に当てた。  何往復かやりとりした末に通話を終えると、改めて響に向き直る。 「総帥から御命令です。明後日、衣都と一緒に屋敷まで来るようにと」 「……わかった」  秋雪の動きは響の予想よりも随分と遅かった。 (とうとう来たか)  ようやく手に入れた最愛の女性との生活を守るためなら、響はどんなことでも厭わないつもりだった。
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