4.蜜月の果てに

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 ◇  約束の日になり、響とともに四季杜の屋敷を訪問すると、この日はリビングルームではなく、来客用の応接室に通された。  今日は身内としてではなく、四季杜の総帥として話をするという意思表示だろうか。  ソファに座り、ヤキモキしながら待つこと五分。  ようやくスーツ姿の秋雪が応接室にやってくる。 「呼び出してすまなかったね」  秋雪は衣都と響に労いの言葉をかけると、大仰にソファに身体を預けた。 「さて、何から話そうか……」 「最初に言っておきますが、衣都との結婚を認めてもらえないなら僕は生涯独身を通しますから」  響は一歩も引く様子がない。  穏やかな笑みを浮かべながら、衣都への恐ろしいまでの執着を平気で口にする。 「お前は昔からこうと決めたら譲らないところがあるからなあ……」  堂々と盾をつく息子に秋雪は呆れ果てたように、大きなため息をついた。 「しきたり通り、二人の結婚を認めよう」  秋雪は降参とばかりに両手を上げた。 「尾鷹家には丁重に詫びを入れた。あちらも我々相手にいざこざを起こすわけにはいかんからな。多少、面白くなくても詫びを受け入れるしかあるまい」  結婚の許しを得ることができて、衣都はほっと胸を撫で下した。 「ただし、今後、あちらとの取引になんらかの支障が出ることも考えられる。響、わかっていると思うが損失は自分自身の手で補填しなさい」 「最善を尽くします」 「婚約発表は年が明けた二月、『梅見の会』で行おうと思う」  『梅見の会』とは四季杜家が主催する大規模な社交会である。  衣都も父が存命中に一度だけ連れて行ってもらったことがある。
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