4.蜜月の果てに

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 四季杜家にとって梅の木は特別な存在だ。  四季杜財閥の社章には梅があしらわれている。  戦前まで住まいとして使われていた旧四季杜邸には、多種多様な品種の梅の木が植えられている。  四季杜家にとって梅は、家木であり、梅見の会は最も重要な年中行事なのだ。 「衣都ちゃんには、得意のピアノを披露してもらおうか。梅見の会には四季杜に縁のある企業の重鎮が数多く出席する。くれぐれも失礼のないように」  招待客は皆、衣都がどんな人間なのか品定めをしにやってくる。  四季杜家の人間となるのに相応しいのか。  自分達にとって有益な人物なのか。  厳しい視線を向ける秋雪の様子からも、失敗は許されないのだとひしひしと感じた。 「わかりました」  衣都は居住まいを正し、はっきりと答えた。  これくらい難なく乗り越えられなければ、響の妻として今後やっていけない。 (頑張らなきゃ……!)  かつてないほどのプレッシャーを感じてはいたものの、衣都にはこれまで培った忍耐力とステージ度胸がある。  もとより、響と離れずに済むならば、どんな課題にも全力で取り組むつもりでいた。 「結婚式場も押さえておきますか?」 「そうだな。秋頃を目処に調整してくれ」 「招待客用のホテルも必要ですね」  響と秋雪は早速、梅見の会の招待客や、結婚式の日取りや場所について話し合い始めた。  着々と進んでいく結婚話に置いていかれないように必死で耳を傾けていた衣都だったが、ふとこの場に綾子がいないことが気にかかる。
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