4.蜜月の果てに

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「響さん。私、おば様には本当にお世話になったんです」  突然、家にやってきた赤の他人を思いやることができる人間がどれぐらいいるだろう。  綾子は人間の醜い一面ばかりを見て絶望していた衣都を明るく照らしてくれた。  衣都を本当の娘のように扱い、受賞歴を聞くと、離れのピアノを自由に弾いていいと、快く許可をくれた。  音大を受験するように強くすすめてくれたのも、綾子だった。  衣都にとって綾子は、最も結婚を祝福してもらいたい恩人だ。  放っておけと言われても、放っておくわけにはいかない。 「私、おば様にもこの結婚を認めてもらいたいの。どうにかして説得します。少し時間をいただいてもいいですか?」  衣都は結婚を認めてもらえるよう、根気強く綾子を説得するつもりでいた。すぐには無理でも、時間をかけて理解してもらう。衣都に出来るのは、誠意を持って綾子に接することだけだ。  響は衣都の決意を聞くと、大袈裟にため息をついてみせた。 「悔しいな。僕より母さんの方が大事にされているみたいだ」  てっきり、同意してもらえると思っていたのに、響はどこか不満げだった。  衣都は我が目を疑い、パチクリと瞬きをした。  あの響が子どものように拗ねている?
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