4.蜜月の果てに

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「はい、ストーップ!」  どこからともなく現れた律は、口づけに及ぼうとしていた二人の肩を引っ掴み、強引に引き離した。 「兄さん!?」 「あーもしかしてー。いいところで邪魔した?」  律は「こいつら何やってんだ?」とでも言いたげな呆れ顔で響と衣都の間に割って入ると、双方をジロリと眺め回した。  衣都を愛でる機会を逸した響は、白々しい態度の律にうっすらと怒りを滲ませた。 「本当に邪魔だよ、律」 「あーはいはい。すみませんね。会社に戻る前に妹にどうしても渡さないといけないものがあったんで」 「私に?」 「ほらよ」 「え!?あ!?」  律からひょいと渡された手提げバッグは尋常じゃない重さだった。  バッグの中を覗き込むと、パンパンに紙が詰まった分厚いファイルが三つも入っていた。 「梅見の会の招待客リストと簡単なプロフィール。ざっと二百人分ってところか?当日までに覚えてこい」 「これ全部!?」 「当ったり前だろうが!誰のために作ったと思ってんだ!おかげで寝不足だっつーの!」    誰が作ったのかと思ったら、まさかの律の手作りである。  どうりでいつもの垂れ目が、より一層眠たげに垂れているはずだ。 「どこまで覚えたか、定期的にチェックするからな。サボるなよ?」  律はサボらないように、衣都に念を押した。  もう引き返せない。  衣都は覚悟を持って、コクンと頷いた。  ピアノの練習に加え、招待客リストの暗記。そして、綾子の説得。  のんびりしている暇はない。結婚までの道のりは前途多難だった。
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