4.蜜月の果てに

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 ◇ 「おはようございます……」 「おはよう、衣都」    眠気に抗い重たい瞼を開けると、響はジャケットを羽織り、既に身支度を終えていた。 「起こしてしまったかい?」 「いえ。大丈夫です」  目を擦りながらベッドから起き上がろうとすると、響は衣都を労わるように優しく頭を撫でてくれた。 「今日は休みだろう?もう少し寝ていてもいいんだよ」  昨夜も夜遅くまで、例のファイルと向き合っていた衣都は確かに寝不足だった。  これから湾岸エリアにある自社ビルへ出勤する響とは異なり、水曜日のこの日は衣都にとっては休みである。  しかし、響が一生懸命働いているというのに、自分だけ二度寝を貪るわけにはいかない。  衣都は眠気を吹き飛ばそうと、勢いよく毛布を跳ね上げベッドから下りた。 「いいえ。私も起きます。おば様の様子も見に行きたいし、ピアノの練習もしないといけないもの!」  休みだからといって、悠長に寝ている時間はなかった。結婚に向けて、やることは盛り沢山だ。  張り切って梅見の会の準備に勤しむ衣都を、響は目を細め眩しそうに見つめていた。 「気分転換に今日の夕食は外で食べないか?衣都の好きなビーフシチューが美味しいレストランを予約しておくよ」 「うわあ!ありがとう、響さん」  魅力的なお誘いにふたつ返事で了承すると、響は衣都の頬に触れるだけの軽いキスを贈った。   「夕方になったら連絡するよ。外で待ち合わせしよう」 「はい!」  ディナーの約束を交わすと、衣都は出勤する響を玄関から見送った。  扉が閉まり後ろ姿が見えなくなると、うーんと大きく伸びをする。  今日も忙しい日になりそうだ。
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