4.蜜月の果てに

12/17
前へ
/117ページ
次へ
「申し訳ありません、衣都様。奥様は衣都様に会いたくないと仰せでして……」 「そうですか。わかりました」  四季杜の屋敷を訪れた衣都は、家令からの返事を聞き、がっくりと肩を落とした。  今日も綾子に会えなかった。  門前払いされるのも、もう何度目かわからない。  衣都は時間を見つけては綾子の元に参じているが、未だに会うことすら叶わなかった。 (どうしたら私の話を聞いてくださるのかしら)  綾子との関係を修復する方法がわからないまま、時間だけが無為に過ぎていく。  時間が解決するということもあるだろうが、一体いつまで待てばいいのだろう。 (もしかしたらこのまま)  悪い想像が頭をもたげそうになり、必死でかぶりを振る。  気持ちばかりが急いていくが、今度こそ綾子を置き去りにしないと決めたはずだ。    衣都は気持ちを奮い立たせようと自分のワンルームマンションに行き、黙々と愛用のアップライトピアノを弾いた。  響のマンションにはピアノがない。そのため、衣都は練習には教室と自室のピアノを使うようにしていた。  響と生きていくと決めたのだから、このマンションもそろそろ引き払う手続きをしなくてはいけない。けれど今は、引っ越しをしている心のゆとりはなかった。
/117ページ

最初のコメントを投稿しよう!

520人が本棚に入れています
本棚に追加