4.蜜月の果てに

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(チョコレートみたい)  柔らかみのあるチョコレートブラウンに心惹かれて、ハンガーを手に取る。  その直感は大当たりだった。  キュッとすぼまったウェスト、大きく広がった裾にはアクセントのフリル。  シンプルだけれど女性らしいシルエットの、このワンピースが衣都はとても気に入った。  服が決まったら、あとはアウターと小物だ。  ワンピースに合わせるように首元にフェイクファーのついたホワイトコート。くすみレッドのハンドバッグ。足元はリボンが踵についたパンプスを選んでいく。 (うん、いいかもしれない!)  コーディネートが決まると、俄然ディナーが楽しみになってくる。  いつもより華やかなルージュを唇に塗り、鼻歌を歌いながら髪を巻いていると、スマホに響から連絡が入った。  『七時に並木通りの時計広場で』  外で待ち合わせだなんて、まるでデートみたいだ。  交際という過程をすっ飛ばし、結婚まで漕ぎつけた衣都にとってはワクワクするイベントだ。  万が一でも待ち合わせに遅刻しないように、衣都は時間に余裕を持ってレジデンスを出発した。  響より先に到着してしまっても、カフェで時間を潰せばいい。そのために律からの宿題も小分けして、バッグの中にしまった。  三日後はクリスマスということもあり、街には緑と赤のモールやサンタやトナカイのステッカーで賑やかに飾りつけが施されていた。  日が暮れたら並木通りは煌びやかなイルミネーションで、さぞや綺麗だろう。  幸せが溢れた心躍る風景に、衣都の心に蝋燭のような明かりが灯っていく。 「いいご身分ね」  ――浮かれた気分に水を差したのは、地を這うような恐ろしい音色だった。
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