4.蜜月の果てに

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  「貴女、『初めて』だっていう彼の言葉を馬鹿正直に信じているの?」 「え……?」 「四季杜財閥の御曹司よ?『初めて』なはずないじゃない。証拠もあるわ」  紬はせせら笑うと、衣都の目の前にいくつかの写真を突き出した。  隠し撮りと思われる写真には、まさに客室に入らんとしている、ひと組の男女が写っていた。  美しく着飾った女性は隣に立つ男性にしなだれかかり、ピタリと身体を寄せていた。  女性を見下ろす端正な横顔は――響のものだった。  信じられないことに同じような写真が、相手や日付を変えて何枚も撮られている。  衣都は顔面蒼白になり、言葉を失った。 「古臭いしきたりなんて、もう誰も守っていないわ。結婚相手だって、いかにも扱いやすそうな頭の悪い女なら誰でも良かったんでしょう?それとも可哀想な身の上が彼の同情を買ったのかしら?」  言い返そうとしたが、声が喉に張りついて上手く出てこなかった。写真を持っている手がにわかに震え出す。 「しきたりに踊らされて恥をかく前に、自分から『結婚をやめる』と言い出した方が身のためよ?」  とくとくと親切心を語った紬は、衣都から写真を取り上げた。  絶望した表情に満足したのか、蔑むような薄笑いを浮かべながら、その場から立ち去っていく。  よろよろとふらついた身体を支えようと、思わず街路樹に手をついた。  見せられた写真が瞼の裏に焼きついて離れない。  彼女の台詞が棘のように突き刺さり、いつまでも抜けない。 「痛っ……」  時間が経つにつれて、手酷く叩かれた頬と、バッグを何度もぶつけられた上半身に痛みを感じ始める。  いや、それ以上に心が痛かった。
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