521人が本棚に入れています
本棚に追加
5.不協和音
衣都は軋む心に鞭を打ち、十五分もかけて、体調が優れないからデートをキャンセルしたいと響にメッセージを送った。
すると、即座に電話が掛かってきた。
『衣都、大丈夫かい?熱は?病院には行った?』
「熱はありません。少し疲れが出たみたいで……。少し休めば良くなると思います」
『最近、色々と予定を詰めこんだせいかな?僕のことは気にせずゆっくり休んで。今日は早めに帰るから』
電話を切ると、衣都は大きなため息をついた。
身体を気遣う優しい台詞が余計に衣都を苦しめていく。
響は相変わらず衣都に優しかった。
突然の予定変更にも文句ひとつ言わない。
楽しいデートの計画を台無しにしてしまった罪悪感で胸が締めつけられる。
しかし、衣都はすべてを隠し平然とデートができるほど、神経が図太くできていなかった。
幸いなことに、紬に叩かれた頬は氷で冷やすと徐々に腫れが引いていった。
この分なら、響が帰ってくる頃には、すっかり元通りの顔に戻っているだろう。
……問題は心に負った傷の方。
見た目の傷とは違って、心の傷はそう簡単には塞がらない。
(どうしたらいいの?)
衣都は自室のベッドに横になり、小さくうずくまった。
胸に渦巻くどす黒い気持ちを吐き出すように、シーツを固く握りしめる。
最初のコメントを投稿しよう!