3話:魔獣戦

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3話:魔獣戦

 フライシュとミューデはダンジョンに入ってビルドゥングと合流をした。  ビルドゥングは異次元級の方向音痴で同じ道を行ったり来たりしたため進めなかった。  フライシュたちに呆れられながらも迷わずに進むことができると、一緒にダンジョン攻略することを懇願した。  フライシュは喜んでその手を取った。 「小鬼の群れだ。棍棒を振り回してくるぞ」 「分かった」 「私も戦う。『平行(パラレル)』、念力操作」  ビルドゥングは金槌で小鬼の身体を砕き、フライシュは剣で斬り捨て、ミューデはというと短刀を浮かせて操り切り裂いた。ミューデの短刀は一撃では致命傷にならないが同時に三本を操って出血させることで討伐した。  ミューデもその間水を浮かせている。 「むう!」  ミューデで絶叫した。  地面に膝をぺたんと着けて半泣きになっている。  目の前には水が浮いていたが濁っていた。  脱力して水の塊がゆっくり落ちていき、地面に触れると弾けて散った。 「ミューデさん?」 「小鬼の血が大事な水に交じってしまった」 「どこかで容器を作った方がいいかもな。水を持ち歩くなら」 「そうですね。ビルドゥングさん、討伐数や採集数はどうやって数えられているんですか?」 「紙を見ろ。討伐数は浮かび上がっている。一方で採集は所持する必要があるから、何でもかんでも採集するのは非効率だ。点数の高いものに絞った方がいい」 「ありがとうございます」 「困ったときはお互い様よ。ということで道案内を頼む」 「はい。できれば食料を見つけたいですね」  ミューデが瞼を閉じて倒れかけるとフライシュが受け止めた。  止まるわけにもいかず再び背負って進むことになった。  ビルドゥングは不思議そうにフライシュを見ている。 「フライシュ、ミューデちゃんとは試験の前からの知り合いなのか?」 「いや、違いますよ」 「どうして面倒を見ているんだ? 与えてばかりに見える。なぜそこまで他人に尽くせる?」 「僕はきっと助けたい主義者です。本当は、僕は冒険者を目指せる人間ではなかった。いつ死んでもおかしくない人生だった。でもどうしようもなかった僕を見つけてくれた人がいた。育ての親は血が繋がった人じゃない。最初は他人だった。でもたくさん与えられた、たくさんのものを分かち合った。だから手を貸すべきと思ったんです」 「変わっているな。でも俺もフライシュを信じる。仲間だ」 「よろしくお願いします。って、あれ」 「魔獣、あれは食べられるぞ、フライシュ」  猪型の魔獣。  四足のひづめ、生え揃った体毛、前を向いた二つの穴を持つ鼻、反った巨大な牙、縄のように伸び切った尾。  荒い息が聞こえてくる。  フライシュとビルドゥングは構えた。 「食べるならフライシュに任せたい。俺の金槌では可食部まで粉砕してしまう」 「分かりました。僕に任せてください」  フライシュは高速移動で迫る。  魔獣は鼻を使ってフライシュの存在に気づくが、雄叫びを上げた瞬間に胴が二つに斬れた。  ビルドゥングは渇いた笑いを見せる。 「はは、容赦ないな」 「みなさんお腹空いていると思うので」 「それもそうか。火を起こそう。ここで役立つのが火起こし用の魔道具だ。これが便利でな、」  フライシュはビルドゥングが取り出したものと同じ金属の棒を取り出す。  大きさは人差し指ほどだ。  マナを伝えると音を立てて火を出す。  魔獣を捌いて脂身を燃料にして火を付ける。  ビルドゥングはフライシュの手際を見て顎が外れるくらいに口を開けて驚いていた。  しかしフライシュは気にせずに魔獣の肉を切って焼き始める。 「むむ。食べる」 「焼けたら食べましょう。まだ生ですから!」 「待つ。でも最初に食べるのは私」 「っておい! 話を聞いてくれよお」  肉が焼ける。  ミューデは瓶を取り出して液体をかける。  滴る液体が地面に落ちないように気を付けながら頬張った。  焚火がぱちぱちと煤を散らしながら音を立てる。  塵が舞って燃える。  ミューデの柔らかい頬を茜色に変える。 「あ」  肉から液体が零れて火に落ちる。  プシュッと音を立てて煙が出た。  ミューデが悲しそうに俯く。  フライシュが励まそうとするが、ビルドゥングがミューデの頭を撫でた。 「大丈夫か?」 「む。すぐ頭を触る、失せるべき。髪がぐちゃぐちゃ」 「ごめんなさい……、そんなつもりじゃなくて」 「フライシュ、何?」 「そういうことはしちゃ駄目って知らなかったから」 「むむ。少なくとも食べている」  ミューデはムッと頬を膨らませる。  食事を再開した。  残りの肉も焼けてフライシュとビルドゥングも食べる。  熱いのは当然として、焦げた表面がやや硬い。  フライシュは火加減について反省する。 「これからだけど、ってミューデさん」 「寝てやがる。まずは水飲み場を探してそこで一夜過ごしたいところだな。地下二階に進めるなら進みたいが、魔獣討伐の点数を見ていると地下三階に到達すればそれなりに稼げそうだ。余裕があるなら四階以降か」 「僕もミューデさんも高ランクで合格したいと思っている」 「試験後にランクを上げるのは時間がかかりそうだからな。だが命を懸ける価値はない」 「分かっている。けど僕もミューデさんも焦っている」 「高ランク冒険者になって稼ぎたいとか英雄になりたいとかそういうものじゃないよな。深い事情を聞くつもりはない」 「うん。大事な人がダンジョンで姿を消した。帰ってこなかった」 「そうか」 「育ての親なんだ。僕を見つけてくれて、拾ってくれて、育ててくれた。子供っぽい人だ、大人げない人だ。でもその背中は大きかった。次は僕が見つけたい」 「強いよな、フライシュは。ということは、育ての親は高ランク冒険者か?」 「強い人。ダティーレ、師匠の、育ての親の名前」  ビルドゥングは一度肉を落としかけて慌てて手で掴む。  火傷しかけて手に息を吹きかけている。 「ダティーレ? そういうことか。分かった、俺にもできる限り協力させてくれ。このダンジョンはまだ攻略していないものらしい。一緒に攻略しよう、それで俺もミューデちゃんも、フライシュも高ランク冒険者として認めさせよう」 「どうしてビルドゥングさんまで高ランク冒険者に?」 「ええ? 酷くない?」 「ごめんなさい。そういうことでなくて、高ランク冒険者を目指すということはそこまで危険に突っ込むということだから。ビルドゥングさんまで危険な目に遭わなくてもいいって思いました」 「見たくなった。最強と称された冒険者を見つけたいってことは、最難関ダンジョンを攻略するということだ。それをな、側で見たくなった」 「他人のくせに」  ミューデは目を覚ましていた。  ミューデが淡々と言い放ったものだから、ビルドゥングは固まってしまった。 「他人のくせに、私にも、フライシュにも尽くす。フライシュのことを言えない」 「え? 俺がフライシュにミューデちゃんと会ったばかりなのに尽くしすぎでは? って言っていたことを聞いていたってこと?」 「私は寝ていた。けど意識を一部並行して覚醒させた。私のスキルは『平行(パラレル)』」 「何それ? 恥ずかしい。ずっと寝ているって思ったのに」 「私はそこまで無防備じゃない」  ミューデは舌をぺろっと出して意地悪に微笑む。  ビルドゥングは耳を真っ赤にして黙る。  フライシュはビルドゥングの反応がおかしくて、つい笑ってしまって。 「フライシュまで!」  ビルドゥングは拗ねてしまうのだ。  
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