4話:鉱石の階層

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4話:鉱石の階層

 食事を終えて、三人はダンジョン攻略を進めた。  魔獣は三人で簡単に倒してしまった。  そして、ついに苔だらけではあったが、地下二階へと続く階段を見つけた。 「よっしゃ! フライシュ、ここからが俺たちだ」 「はい。たぶん遅れていますけど」 「フライシュ様は弱気だな」 「むむむ。金の香りがする」 「ん? ミューデちゃんどういうことだ?」 「行けば分かる」  一段、また一段と進む。  先頭を歩いていたビルドゥングは躓いて転んだ。  手を着いて大事には至らなかったが。 「水晶、これって鉱石?」 「お金の匂い。きっとこの中に点数の高い採集がある。むむむ」 「どうする?」 「目の前にあるものは点数がほとんどないらしくて。時間が掛かりそうなので進んで魔獣を狩った方がいいと思います」 「フライシュが言うならそうしよう」 「むむむ」 「不機嫌になるなよ、全く」 「私、ここなら強いはず」  進む。  巨大な蜘蛛型の魔獣が天井にいた。  糸を伸ばして網状にする。  その中を自在に移動していた。 「あれを倒すのか。俺でも十分戦えると思うが糸が付きそうで嫌だな」 「僕の剣も同じです」 「うん。だからここにある水晶を砕いて。私の魔法杖は念力で一つのものを動かして宙に浮かせて投げられる。そこで『平行(パラレル)』の力を組み合わせて無数の水晶を飛ばして裂く」 「そういうことか、任せろ嬢ちゃん」 「僕も手伝います」  ビルドゥングが金槌を振り回すと魔獣は口から糸を出して絡めとろうとする。  巨大で重いはずの武器を持って、ビルドゥングは糸を軽々しく避ける。  魔獣は連続で糸を出し過ぎたからか糸を作るまでの隙ができる。  ミューデは念力で砕けた水晶を集めて鋭利な先を魔獣に向ける。 「これもよろしく!」  フライシュが壁を駆け抜けて水晶を砕く。  当たり前のように壁を走る姿にビルドゥングは若干引いていた。  ミューデが微笑む。 「私が、仕留めるッ!」  水晶で糸が切れる。  魔獣は身体を守ろうと糸を吐くが欠片を数個止めるだけで無数の水晶が身体に刺さっていく。  悲鳴を上げる。  反撃の隙もなく全身から水晶が体毛のように生えているような姿になって天井から落下した。  ビルドゥングが魔獣の腹が大きいことに気づいて、 「腹を切っていいか?」 「怖い提案。私寝る」 「ミューデちゃんッ! まあいいけど。重い気がする」  短刀で切り込みを入れながら内臓を探す。  引き摺りだす。  何かが擦れる高い音が聞こえる。 「僕でさえ不気味です。ビルドゥングさん、何に気づきましたか?」 「ほら、人間の骨」 「え?」  ビルドゥングは胃袋を出してフライシュに見せる。  意地悪に笑うとフライシュはドン引きした。   「嘘だが。ほら、虹色の石だ、しかも大量。これ全部高得点の鉱石だ」 「むむむ」  人間の一部! ではないことに安心したミューデも目を開ける。  虹色に輝く鉱石に覗くような姿勢になる。 「綺麗。すごく」 「分かった。仕方ないな、ミューデちゃんにやるよ」 「重い、持っていきたくない。怪力馬鹿が持っていくべき?」 「……たぶん俺だろうが、フライシュもなかなかだぞ。剣が出していい威力じゃない」 「僕じゃその金槌は振り回せないよ」 「本当か?」 「その、ビルドゥングさんほど上手くは」  フライシュはビルドゥングから目を反らした。  つまり、フライシュは巨大な金槌を扱えることを自白したのだ。  怪力を認めたことになる。  ビルドゥングは嬉しくなって半分ずつ持っていくと提案しようとしたときだった。  ミューデが、常時眠たげで瞼がいくらか閉じているミューデが、はっきりと覚醒してさげすむような目をビルドゥングに向けていたのだ。 「このわたくしめが所持いたします。重いですものね」  怖くなって折れた。  こうして虹色の鉱石を手に入れた一行は水飲み場を無事に見つけた。  オアシスのように周りには草花が見える。  どこかから運ばれた光が鉱石を通して小さい草花であれば生えるらしい。  一方で木も生えていて手のひらサイズであるが酸っぱい果実も食べることができた。  ミューデは食べるもの全てに瓶に入っている液体をかけていた。  味付けがほとんどないものを食べるのは苦手なのだろうか?  フライシュもビルドゥングもそう思っていた。  そこで一泊する。  翌日、フライシュが初めに起きる。  いつもよりも身体が重い。  疲れているのだろうか?  顔を会わって水を飲んで果実を齧っていると、ビルドゥングも目を覚ます。 「もっと早く起きるつもりだったのだけど」 「俺もだ。ダンジョンの中だから仕方ないのかもしれないが」 「起きるのを待ちますよね?」 「え? 怖い。あれだけ仲良くしているのに朝になったら置いていくのか?」 「そうではなくて」 「起きるのを待つよ、もちろん」  ということでミューデが起きるのを待ったが。 「まだすやすや寝てやがる!」 「ミューデさんはよく寝る人なので。背負っていきますかと提案するつもりでした」 「それを早く言ってくれ! あと頼んだ。女の子をどう持っていいのか分からない」 「僕も分かりませんが。あの人たちのやり方を真似ています」 「育ての親か?」 「はい」  フライシュを抱くのは、始めは拾ってきた張本人ダティーレだけであったが、ダティーレの雑さに文句を言いながらヘローエは抱くようになり、だんだん同じくらいの頻度になっていた。  ダティーレであろうとヘローエであろうと温かくて心地よいものだった。 「本当にいい親だな」 「はい」  フライシュはミューデを背負う。  ミューデは幸せそうに眠っている。  手を肩の辺りに置いて、抱きしめるように掴んで握る。  ということは。 「フライシュ、大丈夫か? 顔が険しいが」 「え、いや、そんな。決してつねられて痛いとかではなくて気持ちいなあ、みたいな感じです」 「育ての親の話をした手前、今更おんぶできないみたいに思っていないか?」 「まさかですね」  フライシュの顔は真っ青だったが。  強がってでも誇りを守ろうとした青年にはそれ以上言えずに。  ビルドゥング自身もフライシュの辛そうな表情を見て共感して痛そうにしていた。  そして、地下三階への階段を見つける。  フライシュに笑顔が戻る。  ビルドゥングも嬉しくなった。  だが地下二階も魔獣が少ない気がした。 「むう、起きた。下ろして」 「うん。地下三階の階段を見つけました」 「む。嫌な予感。最大級の。でも点数を稼ぐには行くしかない」  フライシュもビルドゥングもミューデの言っていることがよく分からない。  それはいつものことかと諦めて階段を下り始めたときだった。  フライシュは身体の駆動が僅かに鈍ったことを感じて立ち止まる。  先頭のビルドゥングはフライシュの様子を気にして足を止めた。 「フライシュ、食べたものが悪かったか」 「違う。この感覚、緊張感、あの頃と同じだ。この先に何かある」 「むっふ! フライシュも分かる側」  フライシュが深刻そうな表情をしているのか、同じく何かを感じ取ったのが嬉しかったのかミューデは腰に手を置いて胸を張る。 「違和感か。何がある? 構えていた方がいいか?」 「危険がすぐあるならもっと嫌な感じがします。野生の感のような。でも少し違います。なので下りてみてから考えましょう」 「私も同意」 「なぜミューデちゃんは楽しそうなんだよ。怖いな」  階段を下りて地下三階層へ。 「違和感って言えば違和感だろうけどさ」 「お前ら遅刻組も来たのか。ここからは一緒に行こう。化け物級の魔獣ばかりだぞ。既に蹴散らしておいた二階層までの雑魚とは違う」  長い黒髪の男が嬉しそうに語りかける。側には紫色の髪の中性的な男、金髪で高身長の女性と、髭を生やした中年の男。さらに、スキンヘッドの男に、ツインテールの双子の少女がいた。  合計七人の冒険者志望がそこにはいた。  
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