5話:共同戦線

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5話:共同戦線

 地下三階、『星の海』。  足元一面に清らかな水が張って、その高さは足首程度だ。  天井には光の粒が無数に張り付いて、光が反射する。  星に見えることから、このダンジョンを用いた試験官がのちに『星の海』と名付けたそうだ。   「遅刻組も合流したことだし、自己紹介をしよう。俺はベトルーク、強力なワイヤーを使って敵を斬ったり、集団で戦う魔獣の連携を崩したり、時には簡易なテントを形成し安全を守ったりと使用できる。じゃあ続けてくれ」  髪が紫色の中性的で整った顔たちの男が前に出た。 「ボクはゲネーゼ。みなさんと協力して合格したい」  続いて、金髪で高身長の女 「あたしはアンデレンよ。生きて合格できれば何でもいいわ」  髭を生やした中年の男と、スキンヘッドの男が続ける。 「俺はテュラン。俺はベトルークの旦那に従う」 「フーレントだ。ベトルークに付いていくぜ」  ツインテールの双子は黒髪で眉がやや太く、どちらもおっとりとした印象だ。  双子は抱き合って。 「姉のカラクテ」「妹のシャモア」  ビルドゥングはフライシュを見る。  ミューデを見ると既に眠っており、フライシュにアイコンタクトを送った。  フライシュは慌ててミューデを揺らして起こそうとする。  ビルドゥングは呆れて頭を掻いた。  先に自己紹介をする。 「俺はビルドゥングだ。腕試しのために冒険者になる。だから来た、強い魔獣は任せろ」 「その体格、お前は強いな。任せよう」  ベトルークは嬉しそうに言う。 「僕はフライシュです。最強の冒険者になりたくて来ました。よろしくお願いします」  フライシュはわくわくした目でベトルークたちを見る。  違和感の正体を探ることなく。  ただ温かさが胸に広がっていく。  懐かしい。 「私はミューデ。つまり美少女」 「ん? 急に何を言ってるの!」  ミューデは得意げに言う。  フライシュは焦ってどうしようかと考えていたが。 「行くぞ」  ベトルークがミューデに視線を向けて、すぐに出発してしまった。  地下三階の魔獣は、石の塊のゴーレムだった。  今までの魔獣よりもはるかに討伐ポイントが高い。 「準備しろ! ビルドゥング、期待しているぞ」  ベトルークが声を掛ける。 「分かった」   ビルドゥングが金槌を前に構えたときだった。  ベトルークがフライシュとミューデを睨む。 「ゴーレムは強い、フライシュとミューデは待ってろ」 「はい、僕らは待っています」  ベトルークら七人とビルドゥングは次々とゴーレムを討伐数する。  ゴーレムは簡単には斬れないため、ビルドゥングが金槌で粉砕し、そのひびから剣を入れて倒す。  次に見つけたのは狼型と猪型の魔獣。  再びベトルークら七人とビルドゥングで倒してしまう。  そこで肉を焼いて休憩をした。  それからさらに進む。  巨大な蝶のような魔獣が出る。 「強いな。あの鱗粉にしびれがある。毒らしい。それに風を操る苦手だな」  ベトルークは目の前の魔獣を分析した。  姉のカラクテと妹のシャモアが前に出る。 「行きます」「はい」  カラクテが駆けるとシャモアも付いていく。 「ギュアアア!」  魔獣は羽を動かして風を起こし、竜巻に変えて放つ。  双子は手を繋いで。 「スキル『反転(はんてん)』、風の向きを一部変える」  カラクテが竜巻に触れると勢いよく飛ばされる。  同じく手を繋いでいたシャモアも飛ばされた。  が。  竜巻は消えた。  シャモアが空中で態勢を整えて姉を抱いて着地し、衝撃を最小にする。 「今だ、行くぞ」  ベトルークはワイヤーを張って魔獣を拘束する。  魔獣は驚いて羽を動かす。  ワイヤーに触れると羽は傷つき、ついに千切れた。 「ギュアアア!」  魔獣の叫び。  ベトルークはワイヤーを緩める。  地面に転がる魔獣を。 「次はお前だな」  ベトルークがスキンヘッドのフーレントを指差す。  フーレントは頷いて短刀で刺した。  魔獣が倒れる。  フーレントが討伐ポイントを得たらしい。 「双子ちゃん、活躍おめでとう。次の大物はやるよ」 「「はい」」  協力して魔獣を追い詰め、活躍している人が多くの討伐ポイントを得られるようにとどめを刺させる。一方で、見ているだけのフライシュとミューデは食料や水がもらえるだけで魔獣と戦わせてもらっていない。  さらに魔獣を倒して。  食事を済ませて仮眠を取る。  交代制で見張るらしいがフライシュとミューデの当番はない。  ミューデは気にせずに眠っているが、フライシュは申し訳なさそうにして。  意識を覚醒させたまま目だけを閉じていた。  ビルドゥングと中年の髭が特徴の男テュランの見張りになる。 「今、寒気だ」  フライシュの背中に冷たい汗が流れる。  目を開けて視線を飛ばす。  巨大な影。 「あの、ビルドゥングさん、テュランさん」  フライシュが影を見たと言う。 「寝ぼけているのか? ガキらしく寝ろ」  テュランは厳しい表情で言う。眉間にしわを寄せて、腕を組んで足踏みを落ち着きなく繰り返しながら。  ビルドゥングはフライシュの言葉を聞いて辺りを見渡す。 「フライシュ、大きさは?」 「大きいけど形は分からなかった」 「分かった、なら対処を」  ビルドゥングが金槌を抱えて魔獣を探そうとしたときだった。  長髪の男が目を擦りながら。 「ならワイヤーを張る。眠たいな、寝るぞ」  ベトルークは落ち着いた様子でワイヤーを張る。  そして、ワイヤーを手で掴んで何かを唱えた。  ワイヤーの色が金色に変わる。 「俺のスキルは完成まで時間が掛かる。だが、それが済めば魔獣の襲ってこない」  ベトルークは眠った。  フライシュとビルドゥングは呆気にとられる。  テュランはベトルークのスキルを理解しているようだった。 「あの人のスキルは最強だ。ワイヤーに包まれて眠るのは威圧感があるが」  テュランは笑う。  ワイヤーで作られたドーム。  フライシュはワイヤーを見て頷く。 「これにも感じるものがあるけど、僕の嫌な予感とは違う」 「フライシュ?」 「僕だけでもワイヤーの向こうに行きたいけど」 「無理だ、寝ろ」  テュランは真剣な表情で言う。  フライシュはワイヤーに触れようとしたがやめた。  諦めたフライシュはミューデのところへ戻る。  そのまま、見張りは後退しながら仮眠を終えた。  そして、三日目がやって来る。
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