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6話:葛藤
三日目、引き続き地下三階を進めることになった。
ゴーレムや蝶型の魔獣だけでなく、狼型や猪型、小鬼といった地下二階までの魔獣も出てくる。
ベトルークが適切に連携を指示して倒していく。
試験で必要となる討伐ポイントでは、最後に倒した者のみ適応させる。
ベトルークは貢献度を確認しながらとどめを刺させて討伐ポイントの分配を行っていた。
「むむむ。私、魔獣倒したい」
「強力な魔獣が出てきたら機会があるかもしれないけど。今のところベトルークさんの指示で対処できているから」
「うん。魔獣が足りない」
フライシュとミューデは最後尾として付いていく。
一方、ビルドゥングはベトルークに気に入られて前にいる。
十人パーティで、前にベトルーク、ビルドゥング、すぐ後ろにカラクテ、シャモアの双子組、金髪で高身長のアンデレン、その後ろに中性らしい顔つきのゲネーゼ、さらに後ろに髭の中年男テュランとスキンヘッドのフーレントがいる。
フライシュとミューデは孤立していた。
「またゴーレムか」
「寝る。おんぶして」
「ミューデさん? 置いていかれますって」
「その方がいいかも」
「順調に進めばいつか活躍できるだろうから」
フライシュがミューデを背負ったときだった。
揺れる。
天井までの高さがある猿型の魔獣。
「お前ら気を引き締めろ。そして、ガキは絶対邪魔をするな。死体が増えてもおかしくない」
ベトルークはフライシュを睨む。
フライシュは待機と聞いてがっかりした。
「殴ってくるのか。避けるぞ」
魔獣が子供一人握りつぶせそうな手を伸ばして払うようにする。
水が舞って煙が出る。
さらに払うような動作をするとその速い動作で煙が広がって視界が悪くなる。
「ワイヤーを張った、指示通りに」
ベトルークが冷静に、しかし力強く伝えた瞬間。
「くそがあ」
フーレントの声が聞こえた。
煙が落ち着くとフーレントは口から血を吐き出して、背中に深い切り傷を作っている。
血が滲んで動けない。
「冷静に対処する。物理系の攻撃が多い、カラクテとシャモアは距離を取れ。俺が罠を仕掛ける。ビルドゥング、前衛を頼む。それから、アンデレン頼む」
「ようやくあたしの番? 分かったわよ」
アンデレンは槍を構えて跳んだ。
魔獣は雄叫びを上げて水を払うように手を動かす。
煙が出る。
「あたしが道を開く。ビルドゥング、あたしに続くといいわ」
「分かった」
アンデレンが槍を振り回す。
ビルドゥングには波紋が水面で広がっていくような感覚が現れる。
金色の波紋がだんだんと広がる。
魔獣の輪郭を感じる。
手の動き、……来る。
「アンデレンのスキルか。よく分からないが、魔獣の動きが分かるぜ。なら!」
ビルドゥングは金槌を大きく上に上げる。
飛ぶ。
「俺が壊してやるよ」
魔獣の頭を潰す。
猿型のそれは一瞬目を白くする。
しかし黒目が戻った。
目が赤くなる。
煙が消えた。
魔獣の手が伸びる。
掴まれてフーレントのように握り潰されてしまう。
誰もが覚悟したときだった。
「スキル『反復』、発動」
ビルドゥングはにやりと笑って、自身のスキルを口にした。
魔獣の頭が凹む。
バランスを崩して倒れた。
「倒したのか?」
「まだだな。こいつ、俺が仕留めさせてもらう」
ベトルークに答えて、ビルドゥングは金槌を構え直す。
背中を向けて倒れる魔獣の頭を金槌で何度も殴る。
血が噴き出した。
「『反復』、壊してやるよ」
魔獣の頭にひびが入り、そのまま砕けた。
「ビルドゥング、強いな」
「見た目だけの強さってだけだ。それと、フーレントはどうする? 痙攣しているが」
「ここで脱落だ。その辺で隠れて浮いている目玉を捕まえろ」
ベトルークが言うと、ミューデが杖を掲げた。
目玉一つがベトルークの前に差し出される。
「ミューデといったか? その力便利だな」
「ん。杖の力」
「そんな便利なものを教えたら盗られても仕方ないぞ」
「目玉に見つかったら失格になる。だから大丈夫」
「そうかよ。だが助かった」
ベトルークはミューデと話して。
目の前の目玉を掴んで思い切り息を吸う。
「試験官、一人重傷だ。脱落にしてもいいから連れ出してくれ!」
地面から女性が出てきた。
スタイルの良い美しい人だ。
「だそうですよ、キーファ様。って、きゃあ!」
ここは『星の海』。
足首の高さまでしか水はないが、下から出てくるなら話は別だ。
その女性は全身濡れた。
「最悪ですわ。まあ良いです。連れて帰ります。マナも無限ではないのですよ。全く」
女性はフーレントを担ぎ、
「それにこういうのは私も疲れますから」
そう言って姿を消した。
一行はさらに進むことにする。
地下三階は地下二階までと比べても広い。
煮沸さえすれば水が無限に飲める。
猪型の魔獣など食べやすい魔獣も多く、食料の問題がほとんど発生しないが。
味付けが淡泊なのは苦しい。
四日目、ついに景色が変わった。
一本だけ気が生えていて柑橘系の果実がある。
試験用の採集に対して果実もポイントに含まれていたが、簡単に採れる鉱物と差がない。
採集は最終的に現物を試験官に渡すことでポイントになる。
この果実をポイントにしたいと考える者は少なく。
ポイントよりも食事の味付けのために利用することになった。
相変わらずフライシュの討伐ポイントは増えていないが。
「ミューデちゃん、あげるよ」
「ん」
ミューデがベトルークに念力を披露してから、少しずつベトルークに話しかけるようになって。二体ほど小鬼の討伐ポイントを手に入れたのだ。
仮眠の時間になる。
フライシュは目を覚ました。
金色のワイヤーで囲まれている。
ベトルークがした。
「フライシュ、起きたのか」
「うん」
「討伐ポイントどうするつもりだ? このままでは高ランク冒険者以前だ。フライシュは弱くない、戦えれば合格点には届く」
「分かっているよ」
「せめて奪えばいい」
「喧嘩になってしまう。この試験で見習い同士の戦いは認められていないし、そうじゃなかったとしても戦いたくないよ」
「どうして。これでは、」
「分け合って生きていきたい。でも分ける価値がないなら」
「ベトルークたちはフライシュが入手できるポイントを奪っているも同然だ。それに分け合うってのはすべて与える側の意見だけじゃない。受け取る側がほしいって言うのもありだと思うんだ」
「ほしい、か。スキル『共有』」
「フライシュ?」
フライシュはスキルを使った。
ビルドゥングは目をゆっくり閉じる。
フライシュの幼少期の奪う生き方、それから師匠のダティーレとの出会いの思い出を見せる。
このスキルの使い方は、同じく育ての親であるヘローエにフライシュのダティーレとの思い出を分けるために使用した。
ビルドゥングは目を開けた。
「僕はもう何も奪いません。このまま進めば強い魔獣もいると思いますし、」
「フライシュ」
フライシュはビルディングの言葉を無視して続ける。
「僕の力を見せればみなさん受け入れてくれます。ミューデも」
「フライシュ」
「認められてきて。可能性がないわけではなくて、」
「フライシュ」
「信じていれば大丈夫ですよ。心配ありがとうございました。この試験が駄目でしたら、mた」
「泣いてるぞ、フライシュ。思い出を見せてもらった。だから分かる。今すぐダティーレさんを探したいんだろ。次の試験を待てるのか」
「仕方がないです。だって」
「フライシュ、俺たちはここまで出会っていた魔獣を倒してきた。今更数少ない討伐忘れの魔獣を探すのは現実的ではない。俺たちの前に出ろ。明日、フライシュを追放する。まだ間に合う」
「ビルドゥングさん、分かりました。僕は一人でも戦えます。大丈夫です」
フライシュは涙を手で拭って笑った。
ビルドゥングはフライシュの背中を叩く。
「試験が終わったらまた会おう! フライシュは最強の冒険者になれる」
ビルドゥングはフライシュを励ました。
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