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7話:追放
五日目。
フライシュは早くに起きた。
活動しているのはリーダーのベトルークだけであるのは、仮眠中にワイヤーをドーム状に編んでいることからも分かる。
ベトルークがワイヤーの先を動かすとみるみるうちに解けて、一本ずつのワイヤーになる。
フライシュの存在に気づいた。
「どうしたガキ」
「僕は役に立ちませんでした」
「まだ十五才だろ? まだ強くなれるな。だから今回は生きて帰れれば十分だ」
「僕は今回の試験で冒険者になります。それもすぐに高ランク冒険者になりたい。魔獣を回してくれませんか?」
「危険だ。それにもう五日目。ポイントの大きい魔獣を見つけられていない。少ないポイントを可能性のあるもので分け合うのは当然だ。次の機会までに強くなって、また参加しろフライシュ」
「そう言うと思っていました。ベトルークさん、僕を追放してください。僕は一人でも前へ行きます」
「死ぬぞ」
「僕は未踏破ダンジョンで大切な人を失いました。今度は僕が見つけて、故郷に返したいって思っています」
「本気で言っているのか?」
「もちろん」
「俺たちはもう助けない。この先に弱い魔獣がどれだけ残っているかも分からない」
「はい。今日までありがとうございました」
フライシュは礼を言った。
そして、持ち場に戻る。
起きて朝食を取る。
果実を使って、昨日の残りの肉を食べる。
食事を終えると、ベトルークはいつも通り立ち回りの確認をして。
「フライシュは今まで役に立たなかった。この共同パーティから追放する」
「はい。今までありがとうございました」
フライシュは一人パーティを去っていこうとした。
ビルドゥングはフライシュから目を反らす。
ここからは一人で討伐ポイントを稼ぐ。
試験官のキーファも個々の力を見ていると言っていた。
これが普通なのだ。
「私も行く」
「え? ミューデ?」
「ふわわ」
ミューデは欠伸をしながら言う。
目を擦りながら。
まだ寝惚けているだろう、フライシュは思う。
「私、フライシュと行く。私もフライシュと同じで分かる側!」
「どういう意味ですか? 分かる側って」
「むふ! 私は高ランク冒険者になる。一番強いやつと協力したい」
「そっか」
フライシュはミューデを連れていくことにした。
共同パーティに入って討伐した魔獣は二体のみ。
ミューデも討伐ポイントを稼ぎたいのだ。
結局ダンジョンに潜った初めのコンビに戻ったことになる。
「ゴーレムの集団です」
「ん。『平行』、短刀連射!」
フライシュは剣で魔獣を斬り、ミューデは無数の短刀を念力で操って魔獣に差す。
ゴーレムは硬いがフライシュの力とフライシュが持つ剣であれば問題がない。
一方、ミューデの短刀は欠けてしまう。
「フライシュ、剣を一瞬貸して。討伐ポイント」
「うん。いいけど」
「念力で操作する。ってマナの消費が大きい。重い剣」
「ヘローエさんからもらったものですけど。特殊なものかも」
「ん」
ゴーレムを斬った。
ミューデの討伐ポイントも増える。
フライシュも増えた。
「あと何ポイントで合格ですか?」
「ん。あと少しでとりあえず合格。最低ランク、Eランクかなにか?」
「そうですか」
「Eランクはそもそも一人でダンジョンに潜れない。魔獣討伐目的でダンジョンに行くことも原則禁止。今の制度になってから?」
ミューデの言うように、魔獣討伐やダンジョン攻略に挑む場合には新たに基準を設けている。したがって、討伐ポイントを稼いでDランク以上にならなければ高ランク冒険者を目指すのはより困難になってしまう。
「ミューデ、急ごう」
「うん。でも寝る」
「スキル使って一部寝るみたいなやつ?」
「違う。ただ寝る。朝から疲れた」
「朝って言われてもずっと薄暗いですし。時間感覚が狂ってしまって疲れやすくなっているのかもしれません。背負っていきます」
「フライシュ、大好き」
「それはどうもです」
ミューデはフライシュの背中ですやすやと眠りだした。
それからも魔獣を探す。
が全くいない。
背中から冷たい汗が流れた。
討伐ポイントが足りないことによる焦り?
いや、違う。
フライシュが振り返ったときだった。
地面にひびが入って迫ってくる。
人がはまるほど大きな割れだ。
フライシュは跳んで避ける。
足首まであった水が割れに吸い込まれて消えた。
「影だ。行かなきゃ」
「むむ」
「ミューデ、起きましたか?」
「むむむ。水が流れている」
「何か感じます」
「私とフライシュは分かる側。私も感じる。でも方向はおそらく」
「はい。ベトルークさんたちがいる場所です」
「ん。でも討伐ポイントが稼げなかった犯人」
「この衝撃。ポイントは大きいと思います」
「ただ一体しかいない。私とフライシュ、どっちかしかポイントがもらえない」
「ならミューデにあげます。次に大物が出たら僕にください」
「大馬鹿。嫌いじゃない。行く」
「行きます。ミューデは一回下ろします」
「ケチ」
ミューデは目を擦りながら頬を膨らませた。
フライシュは気にせずに走る。
ミューデも諦めて走った。
ゴーレムを倒しながら進んだこともあって魔獣と全く遭遇せずに道を戻る。
何度も地割れが轟音とともに襲ってきた。
「棘の生えた球体? ってみなさん、大丈夫ですか」
宙に巨大な球が浮いていて、何でも貫いてしまいそうな鋭い棘が無数に生えている。
地面にはカラクテとシャモアの黒髪双子コンビと、髭を生やしているテュランが血を流して気絶していた。
中性的な顔たちのゲネーゼ、槍を構える金髪女性のアンデレン、ワイヤーを手に持っているベトルーク、そして肩から血を滲ませるビルドゥングがいた。
「フライシュ、どうしてここに?」
「ビルドゥングさん。僕も戦いに来ました」
「ん。私も」
フライシュはミューデを下ろして剣を球体に向ける。
ミューデは魔法杖を掲げる。
「ガキは下がってろ、足手纏いになるだろッ!」
ベトルークが叫ぶ。
恐怖が僅かに滲んでいる。
よく見るとベトルークの口元には血を吐いた跡があって、服にも付いていた。
「僕はヘローエさんとダティーレ師匠から戦い方を教わりました」
「はあ? あり得ない。最近まで現役最強といわれていたパーティだ。一人が行方不明になって解散したって聞いた。それでも伝説のパーティだ。パーティが挑むダンジョンは全て攻略していた。そいつらに教えてもらっただと? フライシュ、ふざけたことを」
ベトルークは激怒してフライシュを一発殴ろうとした。
フライシュは真剣な表情を一切崩さない。
「本当なのか?」
「僕は強い。助太刀の許可をください。共闘したいです」
「こちとら既に三人倒れて人手不足なんだ。こちらこそ、それと討伐ポイントの邪魔をしたことはすまないと思っている。それでもこいつの討伐ポイントは一番活躍したやつにやる、そういう考えでここまで来たんだ」
「僕が一番活躍したら僕にください」
「もちろん」
ベトルークは笑う。
フライシュも強気な表情で笑った。
ビルドゥングはやれやれと頭を掻いて、頬を自分で叩いて気合を入れ直す。
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