8話:ウォッチマン・スター(1)

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8話:ウォッチマン・スター(1)

 地下三階、別名『星の海』。  地下一階、二階の比にならない広さで、一面に足首程度の高さまで水で浸かっている。  天井には光の粒があって、水面に反射してまるで星のように見える。  フライシュとミューデはベトルークが仕切るパーティから抜け出して探索をしていた。  しかし、急に地面が割れて水が吸い込まれて消える。  悪寒を感じたフライシュたちが駆け付けると、ベトルークたちが針の生えた球体と戦闘をしていた。  魔獣名は、『ウォッチマン・スター』。  攻略時に配布された紙によれば、姿不明な魔獣はあとで点数を付けるそうだ。  ベトルークが討伐ポイントの記された紙を見ると、魔獣名が浮き出て、徘徊系のボスと表示される。 「倒れている方はどうしますか?」 「ミューデちゃん、目玉捕まえられないか」 「ん。任せて」  ミューデは杖を掲げる。  陰に隠れていた目玉が引き寄せられた。  ベトルークがその目玉を掴んで、 「負傷者だ、どうにかしてくれ」 『それは彼らの意志で決めます。まだ戦える可能性はありますし、合格ポイントに達しています。ここで迎えに行ってしまうと不合格になります』 「あのくそメイド。フライシュ、無理なお願いが増えた。負傷者を庇いながらでも戦えるか?」  ベトルークが目玉をウォッチマン・スターに目掛けて投げる。  穴が開いて、光は発射されると、目玉に穴が開いて、穴の周りが焦げて黒くなる。 「あれが基本攻撃だ。そして、どうやら全く攻撃が通っていないらしい」 「俺の金槌でもびくともしないな。フライシュ、何か分かるか」 「もう少し観察したいです。今の状態で誰が戦えますか?」  ミューデ、ベトルーク、アンデレン、ゲネーゼ、ビルドゥングが手を上げる。  フライシュは倒れているカラクテとシャモア、テュランの前に立った。 「僕が庇います。そして、倒します」  フライシュは剣を構える。  ウォッチマン・スターに無数の穴が開く。 「あたしが見るわ!」  金髪女性のアンデレンが槍を回す。  瞬間、波が伝わって、直線の軌道を感じる。  アンデレンのスキルによって、発射の軌道が共有される。 「もしかして。僕が挑戦します!」  フライシュは駆ける、迫る。  光が飛んでくる。  フライシュが剣で光を弾く。  瞬間、フライシュは姿を消すと、剣でウォッチマン・スターの攻撃用の穴を突く。  青い液体を吹き出して一面の針が抜けた。 「効いている? あの穴が弱点だったのか。だがあの穴は光を発射してすぐに閉じてしまうんだぞ」  ベトルークが聞く。 「実際には穴の先です。例えば金槌では穴の奥を攻撃することができずに勢いを分散させてしまうでしょう。尖ったもので針を攻撃する。だがその針が取れた。硬い装甲だけ、弱点の穴はない」 「フライシュ、来るぞ。地割れだ」  ベトルークが叫ぶ。  空気が揺れる。  ウォッチマン・スターに再び針が生えると、地面が割れて迫ってくる。  フライシュは倒れているカラクテを持ち上げて跳ぶが、地面が分岐してシャモアとテュランを巻き込もうとする。  フライシュはカラクテを置いて戻って助けようとするが間に合わない。 「『平行』、むむむ」  ミューデの魔法杖による念力で浮かせて、無事に避けた。 「流石はミューデちゃんだな、全く。ってことは俺の金槌は無意味か?」 「ビルドゥングさんは残念ながら、今回は役に立ちません。一方で、ベトルークさんのワイヤーは上手く刺さるはずです」 「その通りだな。アンデレン、ゲネーゼ、援護を頼む」  ベトルークがワイヤーを蜘蛛の糸のように張り巡らしたときだった。  フライシュは悪寒がした。  それは、風。 「来る。みなさん構えて!」  フライシュが言う。 「警戒し、……っ!」  ベトルークが呼びかけようとしたときだった。  針が伸びてベトルークの肩を貫く。  針は縮んで元の位置に戻った。 「なあ、フライシュ。今の攻撃は完全な不意打ちだった。なぜ気づく?」  ビルドゥングは金槌を下ろして言う。 「風とぞくっとする感じ。おそらくほとんど勘ですが、師匠に鍛えられた天性の勘です。ビルドゥングさん、負傷者を守ってください。やはり僕は前に出ます。ゲネーゼさんは戦えますか」 「ボクは五分だけ形を保っていられる金属で、想像した形のものを作ることができる。鋭い剣のようなものを量産する!」  ゲネーゼは両手を前に出すと、全身が銀色に光る剣が錬成される。  そして、その剣をビルドゥングに渡そうとするが。  ビルドゥングは頭を横に振った。 「俺は剣が得意じゃない。あの一瞬の隙を狙う余裕はない。だから、ミューデちゃん」 「ん。たくさん作って、これで一気に仕留める」  剣が次々と錬成され、十本作ることができた。 「これ以上は作れない。ボクのスキルでは十個の塊しか」 「ん。十分。『平行』!」  フライシュが宙に浮く剣に気づいた。 「ミューデ? 分かった、僕が隙を作る!」  フライシュは右へ左へと交互にずれながらウォッチマン・スターに近づく。  無数の穴が開いた。  ミューデが剣を一本だけ念力で操作して、穴に突撃する。  その穴から光が反射されると剣は溶けて地面に落ちる。  さらに、防ぎきれなかった光がミューデに向かう。 「失敗か」  ベトルークがワイヤ-で壁を作って防ぐが、ワイヤーが弛んで光が僅かにミューデを掠めた。  ミューデの頬に切り傷ができる。  ベトルークはワイヤーを操って手元に戻した。  その間、フライシュは穴に向かって剣を刺す。  が。  既に穴が塞がっていて弾かれた。  フライシュは体勢を整えて着地する。 「僕が動揺してどうする? あの隙を突かないと、僕らは負けてしまう」  フライシュは不安と恐怖から手が震える。  ミューデが光の攻撃で怪我をした。  その焦りから、ウォッチマン・スターの唯一の弱点である穴への攻撃が間に合わなかった。  再びウォッチマン・スターに穴が開く。
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