閑話:キーファの冒険

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閑話:キーファの冒険

 キーファは試験の趣旨を勘違いして、未踏破かつ高難易度のダンジョンを選んでしまった。試験では基本死亡ゼロを掲げていると知ったキーファは、先回りしてダンジョンを攻略しようとしたのだが。 「……私、良くないところを選んでしまったみたいですね」  メイドの力で地下六階に転送してもらっていた。  魔獣を次々と倒して、おそらく最後の広間に出たのだが、そこの扉は壊せそうにない。  石をはめる場所を見つける。  そういうことか、キーファは気づく。 「先ほどいた黒い塊がこのダンジョンを支配する魔獣でしたね。地下六階にはもう魔獣の気配がありませんし、あの塊を見つけたいところですが。あれだけ強い気配だったのに今は分かりません。どういうことでしょう? 死者ゼロのために忙しいです」  キーファは地面で擦って痛む黄緑色の髪を手に取る。  短刀で髪を切って、その場に捨てた。 「私の髪はマナが豊富に含まれていますから、髪は勝手に消化されます。って、まだまだ冒険者見習いさんはいませんし、どなたに説明しているのでしょうか。地下五階に上がりましょうか」  地下五階、のちに『神殿の森』と呼ばれる階層。  草木が生い茂っていて天井が高い。  獣のような体毛を持つ四足動物の魔獣が多い。  キーファは欠伸をしながら短刀で切り裂く。 「私を見たらみなさん血眼で襲ってきまし、そんなにも私美味しそうですか? それとも簡単に食べられそうですか? ひどいですよ」  狼型の巨大な魔獣。地下二階の狼型魔獣よりも二回り巨大で、地面から頭までで大人三人ほどの高さがある。  牙を剥き出しにして威嚇する。 「大きな狼さんですね。でも大きいから強いというのは思い込みですよ?」  キーファは地面に落ちている木の枝を拾って手で折る。  小さな塊になると宙に撒いた。  魔獣は口を大きく開けて跳ぶが、頭を凹ませてその場に倒れた。  まるで壁があるように。 「私の『空間固定』です。木の枝を媒介に固定しました」  木の枝の欠片が粉のように細かくなって地面に。  怯んだ魔獣へゆっくりと寄る。  喉を短刀で突いた。 「『空間固定』、これで終わりです」  狼は足を必死に立てて起き上がろうとする。  しかし、短刀が喉にめり込んでいく。  血を吹き出して動かなくなった。  キーファは咄嗟に返り血を避ける。 「だから短刀の位置を固定して動かなくしたのですから、無理に立ったら喉を簡単に切ってしまいますよ。これだから特定部位が明確に弱点となる魔獣は弱いですね」  キーファは魔獣の腹を裂く。  肉を切り取る。 「もう疲れたのでここで寝ます」  キーファは木に上って仰向けになる。  そして、一日分丸ごと眠ってしまって。 「まずいです、まずいです。試験の準備の手続きで過労なのもあって寝すぎてしまいました! このままでは死人がたくさん出てしまいます。未踏破ダンジョンを使って死人が出たと知られたら? Sランク冒険者への道が閉ざされてしまいます。今の強さなら問題ないと思っていましたが、まさか素行も含むなんて思わないじゃないですか! 嫌です、本当に嫌です」  駄々をこねても仕方がない。  キーファは諦めて地下五階を探索する。  すると、目の前を影が通り過ぎていく。  キーファは追う。  蛇型の魔獣が現れた。 「あなたは弱すぎて相手にはなりません。しかし、あの影を追うには十分な時間稼ぎとなってしまうのですよ」  スキルを使いながら簡単に倒す。  キーファは面白くないなと、髪をいじりながら思う。  結局地下六階にいた影を見失ってしまったのだ。  それから木の上で眠りながら探索を進めるが影は二度と見つからなかった。  嫌々進んでいると、ようやく階段を見つける。  キーファは面倒になって階段の前で眠った。  それが失敗だった。 「また眠り過ぎました。これは重労働です。面倒ですが、あまりのんびりしていると大問題なので進みましょう。地下四階なら誰かいてもいいですが」  地下四階、のちの『金塊鉱山』。  辺り一面が金色に輝いていて眩しい。  のんびり屋のキーファにはうるさい印象がある。 「足場も悪いです。といってゆっくり歩いていますと、試験終わってしまいますね」  目の前にゴーレムが現れる。  キーファは短刀を投げた。 「『空間固定』、短刀を止めます」  ゴーレムが宙に浮く短刀を殴る。  ゴーレムの腕が砕けた。 「あとはですね、」  砕けた欠片に固定を発動する。  ゴーレムは暴れるようにしてもう一方の腕で殴るが、宙に浮いている欠片に当たると砕けた。  浮いていた欠片は重力に引かれて落ちる。  キーファのスキルに用いたものは一度の衝撃は無効にして位置を保つが、その後固定が溶けて落ちてしまう。  しかし、固定されたものはいかなる場合でも動かない。 「進みましょうか。あ、また影です。次こそは捕まえます!」  とやる気を出して走るのだが。 「キイキイ」  金色に光るさそり型の魔獣が現れた。  はさみを合わせて音を鳴らす。  キーファは落胆した。 「また逃がしてしまいます。ひどいです、このダンジョン。あの影は絶対強いですし、このままでは死人を出してしまいます。ギルドの方に怒られてしまいます。どうしましょう、どうしましょう。目の前の邪魔は倒すしかありまえんが」  と言いつつ。  キーファはあっという間に倒した。  問題は、 「ここ明るいので疲れました。寝ましょう!」  ぐっすりと眠ってしまったことで、 「また長時間寝てしまいました!」  最終的にキーファは多方面から説教を受けることになるが、それはまた別の話。
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