9話:ウォッチマン・スター(2)

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9話:ウォッチマン・スター(2)

 ウォッチマン・スターは身体に穴を開けて光が発射される。  フライシュは光を弾きながら距離を詰める。  後方でワイヤーを構えるベトルークと、念力でゲネーゼが錬成した九本の剣を浮かせるミューデを確認しながら、光を受ける。 「次こそは」  光が消えた刹那、フライシュは剣を持ち換えて突きの形になる。  他の穴にはミューデが操る剣、ベトルークが使うワイヤーが迫る。  穴は無造作に閉じていく。閉じる順番が早いものと遅いものがある。 「これは効いています」  フライシュは青い血が噴き出たことを確認する。  ワイヤーは三本伸ばして一本刺さった。ミューデの剣は九本中二本刺さった。  ウォッチマン・スターは針をすべて抜いて滑らかな球体に変わる。  次の攻撃は。 「地割れが来ます。警戒してください」  空気が唸る。  キンッと耳の近くで高い金属同士が擦れるような音がした。  天井が割れる。  割れが伸びて、天井から岩石の欠片が落ちてくる。  砂埃が舞い、視界が悪い。 「あたしの出番ね」  アンデレンが槍を振り回す。  風が起きて視界が少しずつ晴れる。  と同時にスキルで、ウォッチマン・スターと次の光線の軌道が共有される。  頭の中に自動的に光の軌跡が描かれた。 「この視界の悪さ、ミューデ、ベトルークさん今回は狙えますか? 僕は近距離なので光の元を辿れば穴に届きますが」 「俺からは無理だな。この視界でワイヤーを使えば仲間を斬る可能性すらある」 「むむむ。私も同じく」 「分かりました。お二人は防御に専念してください。僕が攻撃します」  フライシュは目を閉じる。  アンデレンがスキルで超音波のようなものを作り、その反射によって像ができる。  その像の情報はスキルの適用範囲内で共有できる。  ただし、像は仲間の頭の中で描かれる。  像と、風の動きを読み、目を開けて僅かな光とその明るさの濃淡を認識する。  それらの情報を組み合わせることで、明確な動きが理解される。 「攻撃が来ます」  光線が襲う。  怪我人を庇い続ける余裕がなくなってきた。  フライシュが前線で光線を弾き、漏れたものは攻撃の要であるミューデとベトルークは避けて機会を窺い、アンデレンやゲネーゼはただ避ける。怪我人に向かう分はビルドゥングが金槌を振り回して受ける。  フライシュは剣で穴の隙間を突く。  ウォッチマン・スターは針が消えて穴を塞ぎ、地割れを起こす。  たまたま怪我人から離れて地割れが起きたが、直撃すれば終わってしまう。 「もう余裕がありません。一番ダメージを与えているのが僕で、次がミューデ、ベトルークさん。あと何回か分かりませんが、早期決着を目指す必要があります」  フライシュは振り返ってビルドゥングを見る。 「ビルドゥングさん、お願いがあります」 「どうした?」 「僕に力を貸してください」 「怪我人は? いや、俺の攻撃を弱点の穴に通すのは無理だっただろ?」 「はい。なので、僕のスキルを使います」 「フライシュのスキル?」 「僕のスキルは他人の力を共有する力です。ビルドゥングさんの『反復』を貸してください」  フライシュが他人のスキルを共有する力を使ったことはない。  しかしビルドゥングなら問題なく使えるという自信があった。  野生の勘、戦う者としての勘。 「フライシュ、どうすればいい?」 「僕のマナを飛ばします」  フライシュは光線を弾く。 「アンデレンさん、敵の攻撃の軌道を読んでください」 「全く、ベトルークの野郎よりも人使いが荒いんじゃねえか?」 「それでも。早期決着しかないので」 「はいよ!」  アンデレンは槍を回す。  光線の軌道を読んで、仲間の脳内に送る力。  しかし、冒険者見習いたちであれば目視した方が早い。  フライシュは目を閉じた。  漂うオーラの頭上の濃度を高めて、棒に溶けた砂糖や液体の油を絡めているように、その想像でオーラを伸ばしていく。  アンデレンのスキルでビルドゥングの像が送られてきた。  咄嗟の指示でアンデレンはビルドゥングに対してスキルを使ったとしてもたまたまだろうが、ウォッチマン・スターにスキルを使えばビルドゥングの像も見える気がしていた。  そして、マナとマナが繋がる。  瞬間、熱がフライシュの中に広がる。  剣にマナが宿る。 「行きます!」  フライシュは光線の隙を見て穴を突く。  剣が僅かに震えた。 (間違いない、これが『反復』が使用できるようになった証拠のはず) 「ここからです!」  フライシュが願う。  ウォッチマン・スターが後方に飛んだ。 「フライシュ!」  ビルドゥングが叫ぶ。 「できました。次は地割れです」  ベトルークのワイヤーもミューデが操るゲネーゼの錬成した剣もいくつか当たった。  地割れを避け、再び突く。  それを繰り返して、フライシュの表情にも、ベトルークの表情にも余裕ができた。 「これで、終わり!」  フライシュは剣を刺し、一度身を離して、強烈な蹴りで剣を押し込む。  まだ倒せない、だが問題ない。 「『反復』、発動します」  砕けた。  ウォッチマン・スターの殻が剥がれた。  ここからは全身が弱点だ。 「みなさん、弱点が露出しました。しかし光線攻撃はしてきます!」  アンデレンとゲネーゼも参加する。  槍で切り裂き、錬成した剣を刺す。  光線さえ良ければ問題ない。  ウォッチマン・スターは青い血を流しながら鈍くなる。  ゾクッとフライシュだけが気づく。  フライシュは咄嗟にウォッチマン・スターと距離を詰めた。 「みなさん、何か来ます!」  全方向への光線。  あまりの眩しさに誰もが目を閉じてしまった。  フライシュは直前までウォッチマン・スターから目を離していなかったため、容易に避けることができたが。  フライシュは振り返る。  ベトルークとミューデは腕や腿を切って血を滲ませて。  ゲネーゼとアンデレンは横腹に穴を開ける。  カラクテとシャモアの双子、中年男のテュランはビルドゥングが受け切って傷を増やすことはなかった。 「間に合わなかった。でも、」  フライシュが振り返って状況を判断する。  致命傷ではない。  フライシュが剣を構えて、ウォッチマン・スターにとどめを刺そうとしたときだった。  誰かがいる? フライシュが気配を感じる。  その人物はゆっくりと近づくと、地面に散っている小石を掴む。  ウォッチマン・スターから光線が出るが、すべてその人物に向けられていた。 「『空間固定』、これ以上暴れられると本当に始末書なんですよ」  無数の小石が宙に浮いたまま動かない。  光線を受けると小石は真下に落ちた。 「これが影の正体ですね」  その少女は青い血が噴き出す箇所に手を置く。  ウォッチマン・スターは動かなくなる。 「……あれ」  少女はウォッチマン・スターから完全に目を離して振り返った。  フライシュたちを見ると真っ青な表情になる。 「みなさん生きていますよね。説教されたくないんですう!」  ウォッチマン・スターは地面について、そのまま全身を消滅させ、何も残らない。  とどめを刺した少女は、雑に切った黄緑色の長髪を垂らしながら、あわあわと慌てて手を震わせている。  試験官のキーファ、未踏破ダンジョンを試験に選んだ張本人である。 「あ、そうです。ダンジョンボスは倒したようなので、重症者は今ある討伐ポイント、採集ポイントで合否及び冒険者ランクを決めることができます。ただ、魔獣はなかなか見つからないと思うので、高ランクを目指す人は鉱石でも探すしかありませんが」    ウォッチマン・スターとの戦いで誰もが疲れていた。  キーファがメイドを呼ぶ。  ダンジョンに残ったのは、責任者であるキーファと、フライシュ、ミューデ、ビルドゥングだけだった。
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