10話:試験終了

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10話:試験終了

 フライシュはダンジョンに残るしかなかった。  ミューデと異なり、そもそも冒険者になるための最低の討伐ポイントも足りない。  冒険者となるためには仕方がなかった。  ミューデとビルドゥングはフライシュを放っておくことができなかった。  試験官のキーファは他に冒険者志望がいないことを確認して、フライシュに付いていくと決めたのだが。 「ダンジョンボスの討伐については申し訳ございませんでした。本来ならフライシュさんやミューデさんが討伐ポイントを入手できたはずですよね。本来ならポイントを与えたいところですが、贔屓と捉えられる可能性もあるので申し訳ございません」 「あと一回光線を捌いたとして確かに倒すことができたと思いますが、被害が拡大した可能性が高いので、むしろ助かりました」 「本当に悪いことをしました。ダンジョンは強者が得をするところです。ダンジョンボスとの戦いはフライシュさんのおかげで成り立っていたと思っています」  キーファは面倒な試験官をするからには、自分の理想を叶えたいと思っていた。  だが、試験で見た人物で最も強いと思っていたフライシュは、むしろ討伐ポイントが足りずに冒険者になれない可能性さえも出てきてしまっている。 「む。申し訳ないと思っているなら、眠くて仕方がない私をおんぶするべき」 「すみません、ミューデさん。試験官が手伝ってしまうことになるので、駄目なんですよ」 「むむむ。頼む、フライシュ」 「いいですよ」 「いや、断れよ。フライシュ!」  ミューデは魔法杖を落とさないように背中に紐で固定して、フライシュに飛び乗った。  フライシュは勢いで前に倒れそうになるが堪える。 「美少女に頼られるのは、男の夢」 「それってミューデちゃんが言うことではないだろ。って、寝ているし」 「ミューデが言っていることはあまり理解できませんが、頼られるのは悪くないです」 「お人好しだろ。騙されるぞ」  フライシュが強いというのはキーファには分かっていた。  ダンジョンボスと戦っていたとき、怪我人を庇うことがなければ早期決着ができたはずだ。  キーファが早とちりすることもなく、大量の討伐ポイントがフライシュたちに入った。  実際は元々ミューデに討伐ポイントを入れる計画だったが、キーファはそこまで分かっていない。それでもキーファがとどめを刺さなければ、いくらかはましだっただろう。 「気を付けます」 「それはそうとして、フライシュのスキルのことだ。『共有』、なんだあの強力なスキルは。完全に俺のスキルだった。模倣ではないよな? 俺もスキルを使える状態だった。それも、いつもよりも力が漲ってきた。フライシュの力に間違いない」 「身体能力や考えを共有することもできますが、スキルは初めてでした。ビルドゥングさんも力が増幅されて、僕はスキルを使うことができたってことですね」 「その話本当ですか、フライシュさん。つまり高ランクのスキルですね」  キーファが聞く。  フライシュは頷いた。 「SSランクスキルみたいです」 「「SSランク!?」」  ビルドゥングとキーファが反応する。  そして、ビルドゥングは笑った。 「そりゃ、最強の冒険者にならないとな」 「はい」  ぼうっと歩いて地下四階へ。  のちの『金塊鉱山』と呼ばれる階層である。  辺り一面が金色に輝く。  フライシュは試験のために配られた紙を見る。  ここで採集できる鉱石がありそうだ。 「掘ります」 「その剣で砕くのですか?」 「はい。この剣は僕が力を込めても全く欠けないので」 「フライシュ、俺も手伝う。力馬鹿が役に立つぜ!」 「ありがとうございます」 「ミューデちゃんも少しは手伝って、」  ビルドゥングがフライシュの背中にいるミューデを起こそうとしたときだった。  既にミューデは目を覚ましていて、魔法杖を出している。 「起きているな」 「むっふ! むふむふ」  ミューデは褒められたそうにしている。 「ミューデ、鉱石ほしいからいいかな?」 「私も手伝う」 「ビルドゥングさんは僕と一緒に力任せに砕いてください」  キーファは膝を畳んで地面に座る。 「みなさん仲が良いですね」  魔獣はもう見つからない。  フライシュが冒険者になるには鉱石をひたすら集めるしかない。  今日は遅くまで鉱石を集めて。  ぐっすりと眠った。  六日目、引き続き採集をした。  問題は食料の管理である。  今まで保存食を確保する余裕はなく、朝食で尽きてしまった。  もう一つ問題があるとすれば、飲み水であるが。 「これはただの独り言ですが、私もお腹空いたので食料も飲み水がある地下五階で見習いの皆さんを待って、食べようかなと思います」 「キーファさん!?」  キーファはフライシュの輝く瞳を見ると、目を反らした。  試験官としてフライシュたちを手助けするのは問題だろう。  だが試験官も人だ。  お腹が空くし喉も渇く。  自分は地下五階に行くと独り言を言っているだけ、そうは言っているが。  キーファは地下五階に行ったことがあると言っているのだ。  一日で階段を見つけて下るのは本来であれば難しい。  つまりは、付いてこいと言っているのだ。 「行きましょう、ビルドゥングさん」 「ミューデちゃん置いていこうぜ、寝ているし」 「ミューデはよく眠る方なので仕方がありません。僕が面倒を見るので大丈夫です」 「何かもやもやするな」  ミューデが目を擦りながら、 「子供がペットを飼おうとするが親に怒られる。説得のために、ちゃんと世話するから! って言うやつに似ている」 「子供いないし、そんなことしたことない。ペットはほとんどが家畜化したり改良したりした生き物だが元は魔獣だ。ってそうじゃなくて。起きているなら歩け」 「大丈夫、私は美少女だから背中で感じられるのはご褒美のはず。身体をろくに洗っていないため野性味のある香りになってしまっているが、フライシュならその匂いすら愛している。私としては綺麗な方が良いけど、フライシュが言うなら仕方ない。むむむ」 「こいつ、自分で言っている。フライシュ、これ以上ミューデちゃんを甘やかしていいのかよ」  キーファに付いていくと階段があった。地下五階、のちの『神殿の森』。  天井が高く草木が生い茂っていて、果物が美味しい。  鉱石よりポイントは少ないが、途中で食べられるため持っていく。  ここで一睡して、残りは採集することにした。  一日眠らないくらいなら可能だという判断だ。  ミューデは何度も眠るだろうし、キーファは面倒な表情をしたが。  そして、地下六階。  キーファも広間の奥にある部屋には行ったことがない。  ウォッチマン・スターを倒したからか、扉は開いていた。  キーファが扉を見ると、石がはまっている。  ウォッチマン・スターから出てくるわけではなく、倒すと自然に石が出現して開く仕組みらしい。  部屋の中にはちょこんと小さな宝箱があった。 「宝箱ですね。開けます」  中には石が一粒。  小指よりも二回り小さい小石。 「ちょっといいですか? 試験の紙にかざしてみます。この紙は未知のものであっても採集ポイントを決めてくれます。って、これは」  たった一粒でBランク以上になるらしい。  フライシュはその石をミューデに渡す。  キーファにはフライシュの行動が理解できなかった。 「フライシュさん、強者がもらうべきですよ? 今のポイントではEランク、良くてDランクです。ミューデさんがBランクになります。何をしているんですか?」 「はい。ずっと一緒に来てくれたので。元々ダンジョンボスのポイントを渡すつもりだったので」 「ん。流石下僕、後でご褒美上げる」 「ミューデちゃん何言っている? 流石にフライシュに返せ。キーファさんにポイント精算してもらうぞ。これ以上ないだろうし、今から鉱石を集めても、」 「ビルドゥングさん。お言葉ですが、試験終了時刻までごく僅かです。この階層では手に入らないので地下四階に戻ることになりますが、絶対に間に合いません」 「フライシュ、いいのか?」 「はい。僕は冒険者になれただけましです」  キーファが黙って清算することにした。  試験の紙には討伐ポイントの合計がある。  残りは手持ちの鉱石や果実だ。 「申し訳ございません、Eランクですよ」 「ん。私の他の鉱石も出す」 「俺は魔獣ばかり倒していたから、鉱石とか持っていない」 「ありがとうございます」  キーファ採集ポイントを集める。 「フライシュさんはDランクです。ビルドゥングさん、ミューデさんはBランクです。今なら集計し直して、Bランクにできますよ。DとBでは活動範囲が大きく変わってしまいます。せめてCランクであれば、Bランク以上がもう一人加えて、これからの成果次第ではBランク以上のダンジョンに行くことができますが」 「大丈夫ですよ、これから頑張るので」  フライシュが決めたことだ。  もうダティーレが未踏破ダンジョンで姿を消してどれだけの年月が経っているのか。  時間をかけてからダンジョン攻略をしてもいいはずだ。  DランクからCランクまでどれだけ必要か分からないが。 「フライシュ、これもあげる」 「ミューデさん? ランクで分けている以上、小石を集めてもランクは上がりません」  ミューデが差し出した鉱石を受け取る。  手のひらにあるそれは重い。。  キーファはその石を試験の紙にかざす。  キーファは固まった。  フライシュが覗き込む。 「フライシュさん、最終結果です。最後の石は希少鉱石『魔虹石』、この採集ポイントを加えたフライシュさんのランクは、Cランクですッ! ミューデさん、こんなに重いものをどうやって」 「むむむ」  杖を見せる。 「念力の杖、スキルも使っているわけですね。でも継続的にマナを使い続けていたはず。ふふ、そういうことですか。正直フライシュさんの荷物でBランクに相応しくないと思っていましたが、ミューデさんは強い方だったのですね。ということは、あれですね。ビルドゥングさんはCにしておきますか?」 「……なんで? え? キーファさん??」 「冗談ですよ?」  こうして一週間の試験が終わった。  冒険者のバッジを受け取って、あとは自由なのだが。  フライシュの背中にはミューデがいて。  隣にはビルドゥングがいた。
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