7話:鑑定

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7話:鑑定

 フライシュとヘローエは時に馬を使い、時にポーションで痛みを和らげながら、半ばやけくそに故郷を目指した。  道中で荒くれ者に出会うこともあったが、現役最強の相方であるヘローエと最強に鍛えられたフライシュを相手にできるはずもなく危なげなく対処していた。  路銀はヘローエが冒険者業を廃業していたため、主に旅商人として生活をしていた。 「ヘローエさん」 「ああ、もうすぐ着く。みんなになんて言うべきだろうな。ダンジョン攻略を失敗してダティーレを失ったって言ったら」  ヘローエは旅の始まりは元気ではなかったとはいえ、強い男像から決して遠いものではなかった。  しかし故郷が近づくと弱気になることが増えた。  誰かに襲われても簡単に返り討ちにしてしまうくせに、いつも俯いている。 「ここだ。牧歌的だろ? 商店がないんだ。イディル村、それが俺とダティーレの故郷だ。都会人からすれば面白くともなんともないだろうが、あのときの俺にはここが全てだった。だが広い世界を知りたくて出た。二人で支え合って」 「空気が美味しい。それに綺麗」 「よい笑顔だな。俺の部屋はどうなっているだろうか?」  畑に野菜を育てたり、森に入って薪を作ったり山菜や木の実を採ったり、離れで獣を狩ったりしていた。  たまに食料を中心に近くの街で売って、そこにある商店で物を買うこともあるが、資金が潤沢にあるわけではないので大抵のものは村で調達している。  村の人がヘローエを見つけると表情を少しだけ明るくして話し掛けられる。 「帰ってきたのか?」 「ああ」 「ダティーレちゃんは?」 「ごめん。ダンジョンで行方不明になった。もう駄目になってしまったから戻ってきた」  フライシュは言葉を勉強してきた。  だから痛みがよく分かってしまう。  ヘローエはすれ違う人々に挨拶をして、何度も何度も心をすり減らしながら謝っていた。   「この子は途中で拾った子です。強い子です」  ヘローエとダティーレの子だと勘違いする前に説明をする。  一通り説明を終えたが、誰一人ヘローエを責める人はいなかった。  村長の計らいで歓迎会をしてくれることになった。  なお、ヘローエの母と話すと、 「もう帰ってこないと思ったから薪やら茸やら使わなくなった木製の家具やらで散らかっているから住めたものじゃないわよ。だから村長に聞いて余った部屋を借りることにしたわ」 「ありがとう。この子も一緒に住めるか?」 「もちろん。名前は?」 「フライシュ。ダティーレが名付けた」  比較的綺麗な空き家に住むことになった。  歓迎会は外で肉や野菜、山菜を炭火で焼くスタイルで行われた。  ヘローエはご機嫌な村長から酒をもらって啜るように飲んでいる。  フライシュは大人たちに頭を撫でられたり、子供たちに追いかけられたりしていた。  途中から反撃に出ると、フライシュの身体能力には敵わず子供たちは捕まった。  泥だらけで笑顔だったが。 「ヘローエはこれからどうする?」 「俺はここで暮らす。フライシュと一緒に」 「分かった。この村は働かざる者食うべからずだぞ」 「分かっている。こう見えても有名な冒険者だった。たくさん使ってくれ。それとせっかく空気がいいところなんだ。フライシュにいろいろ教えてやってほしい。賢いやつだ。生きるための選択肢は多い方がいい」  歓迎会を終えて。  家に戻って簡単に片づけると二人は布を適当に敷いて寝た。    翌日から。  二人には畑を任された。  それから力仕事の多くと、山での仕事も多い。  人手不足だったのだろうか?  ヘローエは火を起こすのが上手く村では重宝された。  獣を狩るのもヘローエが来てから順調になり、作物への獣害が大きく減った。    フライシュはヘローエの仕事を手伝いながら、ヘローエの手が空いているときに稽古をして鍛えた。ヘローエが忙しいときは村長や村の人々から知恵を教えてもらった。覚えがいいフライシュを見て誰もが嬉しそうだった。  二人はすぐに村に馴染む。  ヘローエは忙殺されているときは元気に見えるが、時間ができると暗い表情をする。  ダティーレのことを考えてしまうのだ。  フライシュの目の前では空元気を見せるため、フライシュは長年の盗人生活で身に付けた潜伏で覗く。  幸せというのは諸刃の剣なのだろう。  ヘローエがダティーレを失った痛みから解放される日が来るとは思えない。  もちろん、フライシュだって同じだ。ダティーレから受け取ったものの多くに感謝しながら、いつまでも痛みを覚えている。  そして、ついに鑑定の日がやって来た。  ヘローエは大金を巾着袋に入れて、フライシュとともに街まで歩く。  さらにそこから馬車で移動する。 「フライシュ、俺は冒険者になれとは思わない」 「分かっている。僕は自由だ」 「そうだ。一番は知りたいのはな、年齢だ。十五才で鑑定をするというのは慣例だから実際の年齢は分からない。ダティーレが言うように今日鑑定することになったが大きく違う可能性だってある」  鑑定はギルドの一室で行われる。  巨大な二階建ての建物の二階に進む。  親などの同席は認められていない。  個人情報を多く含むためである。 「それでは一人ずつお呼びします。目の前の水晶玉に手をかざしてください」  女性が言う。  一人ずつ前に出て、女性が鑑定結果を伝える。  待つ人も鑑定中の人も静かだった。 「ではフライシュさんで最後ですね。お願いします」 「はい」  フライシュが一歩ずつ進んで水晶玉に手をかざそうとしたときだった。  声が聞こえる。 『はあ、やっと終わる。漏れそう、本当に漏れそう。ってどうして固まっているの? 私を社会的に殺すつもり? もう!』  フライシュは鑑定士の女性をじっと見る。  ぷるぷると震えている。 「漏れるとか口にしない方がいいんじゃ?」  フライシュは周りに配慮して女性に伝える。  顔を真っ赤にした。 「え、ええ!」  驚く。 『声に出ちゃっていた? 恥ずかしい、驚いて少し出ちゃったし!』  フライシュはもう一度言おうと考えて立ち止まる。  自分以外に聞こえない声ならば言わなくてもいいか。 「お願いします」  フライシュが手を置いた。  ピキッと水晶玉にひびが入る。  鑑定士の女性は開いた口が塞がらない。 「鑑定結果お願いします」 「はい。名前はフライシュ(命名者:ダティーレ)、俊敏性、筋力、マナの量、耐久力、体力、スタミナ、どれも基準値を大きく上回っていて、」  女性が一度固まる。  フライシュは首を傾げる。  なお、俊敏性が速さ、筋肉が力強さ、マナがダンジョンで手に入ったり合成で作られる魔道具を使用したりするときに消費するもの、耐久力が怪我のしやすさ、体力が身体の丈夫さ、スタミナがどれほど動き続けられるかの指標である。なお、どれも正確な数値ではなく、その場その場で揺らいでしまう曖昧なものである。 「年齢十一才、スキルあり、SSランク『共有(シェア)』。他者と能力や状態の一部を共有し、パワーアップさせる。ただし、互いへの思いが影響し、警戒心を抱いている相手などには一部制限される。って、最高ランクッ!」  鑑定結果を部屋中に叫ぶ。  居合わせた人々が驚いて、こそこそと話し出した。 「スキル持ち、しかも最高ランクだって!」  一人が口にしてしまって、鑑定士は重大さに気づいた。 「フライシュさん、つい声に出してしまいました。申し訳、」  鑑定士が謝ろうとフライシュを見たときだった。  フライシュは涙を流して、腕で何度も涙を拭っている。 「師匠聞いて。僕は十一才だってさ、全然違うよ。感覚でいつも雑で、十五才じゃなかった。十一才だった。師匠らしい、十一才だってさ」  涙が止まらなかった。  それと、SSランクスキルを持っているらしい。   「僕は冒険者になれますか?」 「あ、はい! もちろんです、SSランクスキルは初めて見ました。むしろ目指してほしいです」 「そっか」  フライシュは天井を見上げる。  ダティーレが最強の冒険者になれると言ってくれたんだ。  それに、ダンジョンへは基本的に冒険者しか行けない。  能力全般が高く、スキル持ちでさらに最高ランクであるSSランクであるというなら冒険者を目指すべきだ。  それに、今度は。 『君を見つけるためにみんな苦労したみたいだよ。けど私に見つかったからには精一杯生きてもらうよ』  そう言ってくれたダティーレのために。 「僕が師匠を見つけたい」  フライシュの中で目標ができた。  そして、覚悟が固まったのだ。
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