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「それなら私が行けばよかったです。もったいないことしました」
「そうだね……」
そしたら、自分はこんな思いをせずにすんだのに。
エルシーはまたため息をついた。
「元気ないですね」
「そうかな……」
「遭難、怖かったですか?」
「そうだね……」
でも、それ以上に胸を占めているのはローレンスだ。
彼はどうして縁談を断ったのだろう。自分に……メイベルに好きだとささやいたのに。キスを奪ったのに。
自分は、とため息をつく。
どうして彼を好きになってしまったんだろう。
紫の瞳が忘れられなくて、窓の外に目をやる。
狩りの日と同じように青空が広がっている。
だけど、彼は隣にいない。
ゴーン、ゴーン、とどこからか鐘の音が聞こえて来た。
「いけませんわ。もうこんな時間。殿下、お着換えを」
「え?」
「おとぼけにならないでください。今日はウィステリア国の王太子がいらっしゃるんですよ」
「そうだった」
憂鬱だ。
ただでさえ、結婚などしたくなかった。
なのに今は。
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