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「別にいいじゃない、ねえ?」  ばう、と犬が答えた。グレイハウンドで、名をハーディという。  グレイハウンドは猟犬で、優しく愛情豊であるとされている。体高——肩までの高さ——は七十センチ前後で、頭の位置は大人の腰を超えるほどにもなり、後ろ脚で立ち上がればエルシーと同じくらいの背の高さになる。短毛のハーディの毛色は青みがかった灰色で、垂れた耳がかわいい。 「ああ、やはり殿下でしたか」  中年の男が小走りに走って来た。 「急にこいつらが走り出すから、殿下が呼んだんだと思いましたよ」  犬を世話している男だった。人の良さそうな笑顔を浮かべている。 「こいつら、殿下のことをリーダーだと思ってますよ」 「そうかな」 「そうですよ」  彼は笑った。確認しに来ただけだったので、すぐに立ち去った。エルシーの元なら安全は確保されているから。 「指笛で犬を呼ぶなんて」  メイベルはまだぶちぶちと言う。 「私、上手いのよ」  エルシーは指笛でメロディを奏で始めた。犬たちがそれに合わせて遠吠えを始める。 「うるさいです、やめてください!」 「うるさいって言われた」  エルシーはがっくりと肩を落とす。
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