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「……では、まだしばらくは耐えてみせよう。だが、いざとなったらあなたがなんと言おうとやる」 「わかったわ」  エルシーはまた弓に矢をつがえた。  エルシーは必死で矢をつがえ、威嚇した。  だが、狼は挑発するように近付き、遠ざかり、エルシーたちを翻弄した。近付いた瞬間に矢を放つが、彼らは俊敏にそれをよける。まるで矢を無駄に消費させるのが目的かのようだ。  その目論見通り、二人が持つ矢は減り、尽きた。  エルシーは動揺したが、ローレンスは素早く剣を抜く。 「落ち着け。あちらはこちらが疲れるのを待っている」  ローレンスは言う。  にらみあって、どれほどの時間が過ぎただろう。  エルシーは疲労を隠せなくなってきていた。  彼がいなければ自分などとうに彼らの腹におさまっていただろう。  彼の気力はいつまで続くだろうか。  このままでは二人とも食べられてしまう。いや、その前に彼の愛馬が、彼自身の手によって殺されてしまう。そんなの、馬にとっても彼にとっても一生の心の傷だ。  さきほどの遠吠えの主は、なかなか現れなかった。  だが、それでもこちらの劣勢は変わらない。  いつしか霧が晴れ、雲が切れ始めた。満ちた月が顔を覗かせ、煌々(こうこう)と地上を照らす。  そのせいで、よけいに狼の姿がくっきり見えた。  あいかわらず目はぎらつき、こちらを見ている。
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