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「犬の遠吠えが、ですよ」 「指笛はいいのね」  とたんにエルシーは明るさを取り戻す。 「まったく。王女が犬なんか従えてどうするんですか」 「かわいいじゃない」  ハーディの頭を撫でながら答える。  横にはスコティッシュ・ディアハウンドのコーレイがいた。ハーディよりひとまわり大きい。耳はこちらも垂れていて、毛はきめが粗くもさもさして見える。ディアハウンドの名の通り、鹿狩り用の犬だ。  エルシーはコーレイの頭も撫でる。これもハウンド系の犬だ。 「ハーディ、コーレイ、リングウッド、ノーズワイズ、エイミアブル、それから……もう、みんないいこ! メイベルも撫でてあげて」 「大型の犬なんて怖くって近寄りたくありません。狼みたいじゃないですか」 「狼、いいわね。飼ってみたいわ」 「ああもう、殿下は本当に能天気でいらっしゃる」  エルシーはかちんときてメイベルを見た。  彼女はちょいちょい失礼で腹が立つ。悪気がないのはわかっているが。  メイベルはエルシーのムッとした様子に気付かずに続ける。 「私なんて、近々お見合いなんですよ」 「いいじゃない」  年頃の令嬢がお見合いをするなんて普通のことだ。  エルシーも来月のお見合いが決定している。見たこともない隣国の二十歳の王子だ。よほどのことがない限り、そのまま結婚が決まるだろう。国は弟が継ぐことが決まっている。 「良くないですよ。送られて来た絵姿を見たらすごい見た目なんですよ!」  メイベルは不機嫌を隠そうともせずに言った。
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