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 優しい夜が脳裏に焼き付いて離れない今は、なおさら他の男性など考えられない。  メイベルに言われるがままに着替える。ドレスは藤色だった。 「ウィステリアの王子殿下からの贈り物ですよ」  メイベルはうきうきと着つけてくれた。  紫は彼の瞳の色だ。  エルシーはまた胸を締め付られた。気持ちは深く沈んでいく一方だった。  謁見の間に続く控えの間で、国王とともに呼ばれるのを待った。 「国王陛下、王妃陛下、王女殿下、ご来臨!」  声がかかり、両親が謁見の間へと進む。エルシーはとぼとぼとそれに続いた。  二人の男性が頭を下げて(ひざまず)いていた。  一人は茶色の髪で、一人は黒髪だった。  ローレンスと同じ色だ、と胸が痛くなった。 「顔を上げよ」  王の声で、二人は顔をあげた。  エルシーは声をあげそうになり、必死に抑えた。  黒髪の主は、ローレンスだった。  どうしてここに。  目が合うと、彼はにこっと笑った。 「……シー、エルシー!」  母の声に、ハッとした。
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